銀魂夢小説5(殆ど高杉)

□片目違い
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昼間の雑踏に紛れて歩く、派手な着流しの男。
左目を包帯で隠したその姿は「異様」であった。
しかし町は、人間よりも不可思議な身なりの天人をも雑音に隠す。
よって、派手な着流しの男…高杉晋助の姿はありふれた風景に溶け込んでいた。


「なんだ…?」


ふと目の前の雑踏の中に、無駄に広がった人だかりを高杉は認めた。
その中心からは女の悲鳴らしきものが響いている。
しばし歩みを止めては見たが、ここからではよく分からない。
指名手配の己を思えば通り過ぎるのが妥当なのだが…。
元来祭り好きなこの男は、当たり前のようにそこへ歩みを進めた。

人ごみに紛れ、中心へと向かう。
すると半径3mほどの円状の空間に出た。
そして遠巻きに野次馬を集めた円の真ん中では、異形の形をした天人と女が言い争っていた。


「俺の嫁にしてやるって言ってんだよ!!」

「いやっ…嫌です!!!」

「んだとこのアマ!!今すぐここで犯してやろうか!!??」

「いや…離して!!」


可哀相になぁ…と、その様子を見詰める町人の一人がつぶやいた。
しかし助けるそぶりなど微塵も無い。
運が悪かった、仕方ない、と野次馬どもは言葉を吐き…しかしそれでも。
この人間の女と天人がどうなるのか?という馬鹿げた思想の元に事の顛末を待っていた。

「くだらねぇ…」

それは高杉とて同じ。つまらぬ争いには興味もない。
せいぜいてめぇの身はてめぇで守れよ、と。
心の中でつぶやいてその場をあとにしようとした、その瞬間。


「この人!!!私の婚約者なんです!!!」

「あぁ?」


がしりと。腕をつかまれた高杉はその場を去ろうとした歩みを止められた。
斜め下を見てみれば先ほどから天人と言い合っていた女が己の腕をしっかりつかんでいる。
女は顔もあげず、ただ己の腕をつかみ恐らくは天人を睨んでいた。
瞬時に体を貫くような苛立ちを覚えた高杉は、その目線を自然に女の目線と同方向…。
つまりは女を嫁にすると宣言していた天人に向けることとなった。


「このクソアマが!!」


異形の天人は、憎憎しさを隠しもせず。
汚らしい言葉を発すると、女がつかんだ腕の主を見上げた。

「婚約者だと?…今思いついたよう…ひっ」



結果から言えば。
高杉の殺気じみた視線は天人をいとも簡単にその場から去らせる事に成功した。
目が合った異形の輩は、顔面を蒼白にして小さな悲鳴を上げ。
野次馬を掻き分けるようにして逃げ去った。
と同時に。あっけない結末にさして面白さを見出せなかった野次馬も。
ぶつくさと文句を言いながらその場をあとにしていった。
女は自分が助かったのだと、周りの人々が居なくなる過程の中で理解し。
高杉の腕をつかんだまま、先ほどまで身に起こっていた恐怖を思い出したかのように震えていた。


災難だ、と高杉は隣の女を見やる。
世に名高いテロリストである己があまり長い事この場にいるのは頂けない。
全く…いい加減礼の一つも言えないのかとため息をつく。
するとようやく女が言葉を発した。



「すいません、突然こんな事に巻き込んでしまって…」

「…」

「あの、申し訳ありませんでした…あっ」

「…」



うつむき深々と頭を下げ、そうして顔を上げた女は…。
高杉の顔を見て絶句した。
それは仕方のないこと、見上げた相手はあまりにも有名な人物。
雑踏に紛れていれば分からないかもしれないが…野次馬が去った今。
高杉の存在は街中に張られている指名手配のそれと違わず、女の前に在った。



「ああ、あの…すいません。申し訳ありません、私…なんて事を…」

「…いいから、離せ。しつけぇとぶっ殺すぜ?」

「はははは、はい…すいません」



さっと高杉の手を離し、それでも何か言いたそうな女に。
高杉は舌打ちをこぼす。一体この期に及んで何だというのだ。
言いたい事があるならはっきり言えばいい。
高杉は決してお人よしではないが、曖昧な態度を取られるのは好きではない。
立ち去ればいいものを、女のいぶかしげな表情に苛立って。
つい「まだ何かあんのかよ」と返してしまった。



「あの…その、貴方はもしかして…かの有名な…」

「…あぁ」


そうだ、と言わんばかりに睨みつければ女は「やっぱり」と声をあげた。
それから「随分と大きくなられたんですね」と言う。
高杉はそこではてと小首をかしげた。
知り合い…だろうか?しかも言い方からして幼い自分を知っているようだ。
女はなおもこう続ける。


「お父様はお元気ですか?」

「…」


やはり、知り合いらしい。己の父をも知っているというのか。
しかし高杉には女の記憶が全くなかった。
どこかで会ったことがあると言われればそんな気もする。
だが全く会ったことが無いと問われれば、それも正しい気がする。
一体こいつは誰なのだ、と埋もれた過去をほじくり出しても…しっくりこない。
高杉がどうにか相手を思い出そうとしていると、再び女が口を開く。


「今日は、お父様は一緒じゃないんですか?」

「え…あ、あぁ…」


とりあえず話を合わせ、相槌を打てば残念そうに女は頷いた。
そうして高杉の周りをキョロキョロ見回し、「他の方はいらっしゃらないんですか?」と聞く。
他の方…って鬼兵隊の部下のことか?と高杉は考えそれにも「そうだ」と答えた。


「そうですか、皆さんにもお会いしたかったんですけどね…」


残念そうに俯きながら、「でも貴方に会えたので」と笑顔で言う女。
高杉は勝手が分からずにますます悩むこととなる。
だがしかし、その疑問は後の女の一言によって爽やかに解決した。





「今日は黄色と黒のチャンチャンコ、着てないんですね」

「いや…」








それ、片目違いです。









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