銀魂夢小説8(全部高杉)

□繭と生糸は日本一
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「頼む、そいつはやめとけ!!絶対しちゃなんねぇ、人として人として!!!」

慌てふためいて駆け込んできた高杉晋助を、その場に居た3人は疑問符で出迎えた。





―30分前―



「ねー万さん、まーちゃん」

「何スか?」

「何でござる?」

「コレ、晋助が次のテロの標的候補の場所なんだけど」

「あぁ拙者も知ってるでござるよ。…工場?でござるな?」

「そうっスね、晋助様にしては地味な気がするっス」

「だよねぇ、だけどここ爆発させちゃったら…困るよね」

「そうでござるか?」

「万さんは困らないかもしれないけど、私困るよ」

「あぁ…分かる気がするっス」

「テロリストもやはり人間でござるな?後々己が困るものは壊したくない…と」

「それを言ったらおしまいですよ、万さん。でも実際晋助も困ると思う」

「確かにそうっスよね、晋助様のモノもここで作られてるんスから」

「そんなもの爆発させちゃっていいのかな?」

「そうでござるな、まぁ…良いのではないか?提督の思うところあっての行為ならば」

「そうかなぁ…。絶対晋助が困ると思うけど」

「晋助様の考える事って難しいっスからね。…まぁ何とかなるっスよ」




高杉晋助はそこまで話が進んだところで現れた。
今話題に上がっている工場についての話をするためである。
実際そこを標的にしたのは大して意味は無い。
ただターミナルに近い場所であったから、というだけ。
そんな場所で大規模なテロがあったとするならば…。
鬼兵隊はここまで近づいてきているのだ、と真撰組を威嚇するのに丁度良い。


だが「晋助が困る」と言葉に出した、この中で唯一浮いている存在の声を聞きとめる。
そう、己の恋人だ。
恋人とは言いつつも彼女も立派な鬼兵隊の一員。
しかし表立った動きはせずに、平たく言うなら裏方といった感じだろう。



高杉はここへ、例の標的について話に来たのだが。
彼らがその話題を出していたなどとは知らなかった。
到着した際に聞こえたのは、恋人の声とそれに相槌を打った来島の声のみ。
はたと足を止め、考える。


「俺が困る?」


一体何の事やら、と呆れ声とため息を混じらせてそこへ邪魔しようとした時。
聞こえたのだ、ありえない、恋人の、残酷なヴォイスが。




「セイシ工場が爆発したら、晋助絶対困るよ」







OH!!!MY!!!!GOOOOOOOOD!!!





高杉は聞き間違いだと思いたかったが、それは無駄な事。
その短い一文は、はっきりときっちりと脳みそにダイレクトに響き渡る。
セイシ工場を爆発だと?セイシ…精子工場を?
しかも俺の名前が出ているって事は?
頭をぐわんぐわんとかき回し、こねくり回し、ひねり回し。
高杉は認めたくない一つの答えを導き出した。





俺の金玉がぁああああ!!!





そんなものを爆破させられた日には、困るどころの騒ぎじゃない。
どうしてこんなことになっているのか?何故だ、何故なのだ。
何がどうなって金玉を爆発させる事に及ぶのだ。
意味が分からない、そして分かりたくも無い。



「俺の…」


キュッと股間のそれを握り締めてみる。


「暖けぇ…まだ…生きている」



何が?と言う突っ込みはこの際してはいけない。
高杉は己の睾丸を更に少し強く握ってみた。
無論、痛い。


「コレを爆発させる、だと…」





無理、無理無理無理!!!絶対無理!!!!死ぬって死ぬって、マジ死ぬって。
おしっこしたいんですか?と言われそうな格好で、股間を握る馬鹿総督。
両足はがくがくと震え、その事態を想像すると若干失禁してしまいそうになる。
恐怖が伝わったのか高杉の睾丸は縮こまってその存在を消そうとしていた。



「俺をどうしてぇんだ、あいつら…いや、俺の金玉爆破してぇんだよな、そうだった…」



独り言を言う間も、会話は漏れてきていた。
けれども完全に妄想モードの高杉が聞いているわけも無い。
人の話を聞くような男なら、今頃とっくに銀時や桂と仲直りしていることだろう。
だが今の高杉を見て、同志と思いたいか?と問われれば恐らく話は別だが。



「あいつら反旗をひるがえす気だなァ?ちくしょう…よりによってタマ狙うとは…」



彼の言うそれは勿論金玉の方であって命ではない。
タマ違いもいいところである。
ダークな思想が高杉の脳内に浮き出ては消えて、また浮かぶ。
己のやり方が気に入らないとでも言いたいのか?そうだ、そうに違いない。
隔てた向こうの3人はきっと…自分の金玉を爆発させると言う行動で、下克上を決断しているのだ。
そういうことなのだ、でなければ嘘だ。



男の一番大切なものを爆発させようなんて、並みの事じゃない。




並みの事じゃないのは、高杉の脳内だ。
彼らは3人同じ話題を共有できていると言うのに、この高杉は個人的な妄想のみでの構成。
はっきり行って先走りもいいところ。っていうか馬鹿。



だけどこれでも世間では怖い人。




どうしようどうしよう、とオロオロし始める高杉。
そりゃそうだ、何せ彼の頭では「セイシ工場=精子工場=金玉」という方程式。
「金玉が金玉が」ともはやこのマンガのタイトルのようなうわ言を繰り返す。
そうして彼は心に決める。



冗談じゃない、そんなことさせてたまるか。



冗談なのは彼の思考だが、そんなものは関係など無い。
そうと決めたらそう、高杉晋助とはこういう男なのだから仕方ない。
例え世間では認めらぬ路(みち)だろうと己は信じて歩いていく。
信念とは、そういうもの。



「だから…金玉爆発なんざさせやしねぇ」




お前は何に闘志を燃やしてんだ?
などという突っ込みも潔く聞こえない、すばらしい耳の持ち主、高杉。
彼の中では裏切られたという不快感と憤りが渦巻き始める。
男の勲章をもぎ取ろうとは、提督に対する反逆だ。
そこに恋人まで居たというのはいささか辛い…しかし。



「俺ァ俺の野望を達成させるまで、止まる訳にゃいかねぇんだ。無論、死ぬなんざまっぴらごめんだぜ」



高杉晋助こん身の台詞@お手手は股間だ。
ついでに脂汗と蒼白、というオプションつき。
スルリと抜刀しながら、小さく呟く。


「お前らと居た時間は短くはねぇ…だが、これで仕舞いだ」



明らかにおしまいなのは彼の脳内お花畑妄想であるが、そんなものも勿論(以下略)。
やられる前にといわんばかりに抜刀し、高杉は短くため息を付いた。
するとそこでようやく、恋人の声が耳に到達する。


「ところでいつ決行するの?」


彼女はいい女だった、と少し感傷に浸る高杉。
だがいくら恋人とはいえ、己の金玉を差し出すわけには行かない。
出る杭は出る前に打つ、だから今のうちにこの場で…。
すると恋人の言葉に、残りの二人が答えた。


「あぁ実は…爆弾ならもうセットしてあるでござる」

「そうっス、かなり高性能な小型爆弾で遠隔操作も出来る優れモンっスよ?」

「後はこのスイッチを押せば、完了でござるが…」

「晋助様が許可してくだされば、いつでも爆破可能っス」





な ん で す と ?





すでに爆弾をセットした後、だと?俺の金玉のどこに?
高杉は片手に刀を持ち、もう片方の手で睾丸をグニグニと探ってみる。
別段変な気分にならないのは、精神的に追い詰められているからだろう。


「どこだ爆弾?どこに仕掛けやがったんだ?玉裏か?それとも…くっそ体内に埋め込みやがったか。
高性能小型爆弾つっていやがったなァ。よもや俺には探し出せねぇくれぇ小さいのか?」



片手に刀、片手に金玉。
絶対に他では見られない高杉の、ある意味貴重な姿である。
必死で体内に埋め込まれた(と思っている)爆弾を探すものの、やはり見つからない。
もしも勝手にスイッチを押された日には、とんでもない事が起こる…金玉に。
男のシンボルが破壊されたらどうしたらいいのだ。
確かに動物は去勢すると大人しくなるというが、まさかあいつらはそれが狙いか?




「万事休すか…ちくしょう…ふざけやがって」




お前がな、と言われてもおかしくない状況で。
高杉は金玉から手を離すと両手で刃を持ち直した。
すると再び中から声が聞こえてくる。


「晋助に許可なんか貰わなくてもいいんじゃないの?」

「…ふむ、考えればそうでござるな?爆破しろという命令は出ているのだし」

「じゃ景気付けに今この場でみんなでスイッチ押すってどうっスか?」

「いいね、まーちゃん…そうしよう!!」






ダメ、ソレ、イクナイ。





高杉はその場に刀を放り投げ、慌てふためき。
金玉を抑えた状態で3人のいる場所へ転がるように突入した。
そうして冒頭に戻るのである。



****


結局の所、セイシ工場とは製糸工場のことで。
今回の標的になったそこは国内で一番大きな施設であった。
着物を作るのに必要な生糸が作られる場所。それが爆発などしてしまったら?
そう…晋助の着物も彼女達の着物も…材料が無くては作れない。
その意味で「困るね」と話をしていたのだが、提督命令ならばいざ仕方ない。
何とかなるだろうと決行を試みた。



が…どこかの馬鹿が「精子工場=金玉」という方程式を導き出したおかげで。
今回のテロは失敗に終わったのだった。



ちなみに鬼兵隊のテロが不成功に終わる原因は、大抵。
某・馬鹿提督の勘違いの所為らしい。







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