銀魂夢小説5(殆ど高杉)

□おたまじゃくしみたいな、アレ
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最近夫の晋助の行動が怪しい…。
ある日曜日の夜、私が仕事で帰ってくると…晋助はコソコソ自分の部屋で何かしていた。
妻である私は平日が休み、夫の晋助は土日祝日休み。
なので日曜日は彼が家に居るのは当然なのだが…。
今まで部屋でコソコソしていることは無かった。



「ただいま」


誰も居ないリビング、普段の日曜なら晋助がテレビを見ている。
けれどもその時は違った。
私は怪訝に感じながらも、まぁたまにはそういう日もあるかとさして気にはしなかった。
が…翌週も、その次も。やはり私が帰るとコソコソしている晋助。
怪しくないと表現する方が難しい。
残念なことに信じるよりも疑う方が簡単なのだ。


言葉にしてしまえば良い、けれども私の勘が当たってしまったらショックだ。
頭を「浮気」という文字が駆け抜ける。
今までずっと部屋に篭っている晋助を放っておいて来たけど、実は時々声が聞こえるのだ。
まるで会話みたいに。
携帯で誰かと長電話に興じているのだろうか?
ちなみに、怪しい行動を始めてからも帰った玄関に女物の靴があったなんてことは無い。
部屋から出てくるのも晋助だけ。
けれども…もしかしたら。昼間、私が仕事をしている時に…。


考えれば考えるほど焦りと苛立ちが募る。
しかし先入観だけで問い詰めることも出来ない。
やはり、本人に直接聞くしかないのだ…例え結果が悪くても。
私は晋助が怪しい行動を始めてから1ヶ月経った頃、ようやく夕飯の席で彼に聞いた。


「あの、晋助…」

「あ?」

「最近さ、部屋に篭ること…多いよね?」

「な…何、何を…何が?」

「だから、この頃自分の部屋に居ることが多いじゃん?」

「んなんなんなことあるめぇよ」



明らかに動揺している。
晋助は一瞬、右目を見開き…それからきゅっと細めた。
彼は左目を幼い頃に怪我で失明したそうだ。その傷跡を隠すために常に眼帯をしている。
そして…残った右目を見開いてから細める仕草は、焦った時にするクセ。
私は晋助の右眼をじっと睨みつけた。オロオロと宙を泳ぐ深い緑の眼球が悲しい。


「晋助…嘘ついても無駄だよ?」

「あぁ?俺は嘘なんざ…」

「ついてないって言えるの?何も隠してないって、言える?」

「俺の部屋に入ったのかよ?」

「違う、でも…最近晋助の部屋から話し声が聞こえるんだよ、会話みたいな声」

「…」

「私は余計な散策はしない主義だから、今まで晋助の部屋に入ったことは無いよ」

「…」

「でも、部屋でコソコソ私以外の女と長電話するなら…もう…」

「ちょっと待ってくれ」



待ってくれ、と晋助はもう一度私に言う。
言い訳なんて聞きたくないと告げると「違うんだ」と更に動揺した。
頼むから聞いてくれという彼に私は渋々承諾する。
晋助はちょっと肩を落として実は…と話し出した。



「俺よォ…眼が…片方しかねぇだろ?」

「え…あ、うん」

「ガキの頃に失明しちまった、って話…したよな?」

「…うん、それが何?」

「だからその…実は、俺…俺な、俺…」





*******


「はい、じゃ晋助次…これ」

「…上?」

「はい、じゃ…次はこれ」

「下…じゃねぇな、右」




晋助を問い詰めてから数日後の日曜日。
仕事を終えて帰宅した私は彼の部屋に居た。
嬉しそうに左目を遮眼子で隠す晋助。
ため息混じりに私は「右目1.2ですね」と告げる。
あの日、私が彼を問い詰めた日。返ってきたのは意外な言葉だった。



「実は俺…視力検査のおたまじゃくしみてぇなヤツに憧れてて…」




小中高と12年間、常に視力検査で「高杉君は隠す必要ないね」と言われてきた晋助。
そりゃそうだ最初から隠れてるんだから。
しかしながらその言葉は彼に無駄な憧れを植え付けた。
「俺もあのおたまじゃくしみてぇなヤツで目を隠してみてぇ」と。
大人になり、結婚し…私の居ない日曜日。
たまたまインターネットで「視力検査セット」なるものを発見した彼は社会人の特権を利用して買った。




そして、私の居ない間…一人視力検査ごっこに興じていたそうだ。




「言えなかった」と恥ずかしげに俯く晋助に対し。
あまりに馬鹿げた発言を受けた私はしばらく口が聞けなかった。
そして彼の部屋にある立派なその検査セットを見て更に言葉を失った。
だって他に使い道が無いんだから。でも…。



「晋助、案外…視力良いんだね?」

「あぁ…つかよ、今度ナース服を買ってよ?お前それ着てくれよ?んで、もっと本格的にやろうぜ?消毒液も買って、そんで…」

「あぁ…うん、そう…だね」



一人視力検査ごっこなんて、大の大人にあるまじき哀しい趣味に。
同情した私はこうして付き合う事を約束した。
おたまじゃくし…否、遮眼子を弄び「やっぱ良いよな、これ」と笑う晋助。
あぁ…何というか…。
浮気じゃ無くてよかったと思う反面。
まだ浮気の方が突っ込みやすいと感じずには居られない。







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