銀魂夢小説7(ALL高杉)

□唯一無二
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「君を世界で一番愛してる」そう言ってくれたのは、元の彼だった。
結局は別れたから、元彼という表現になっているわけだが。
過去を思い返しながら、私はぼんやり窓の外を眺めていた。
それからチラッと隣にいる、今の彼氏に目線を移す。

比べるてるわけじゃないけど、何だか今の彼が物足りないと思ってしまう。
それがワガママだってちゃんと理解しているけど。
でも、もう少し何かしらアクションがあってもいいじゃない?

なーんて、隣でタバコをふかしている晋助を見つめる。



「…あんだよ?」

「べっつに〜」


晋助と元彼を比べればそれこそ間逆のタイプだった、外見もそうだけど中身は、かなり。
大体私が好きになる人って、社交的で誰とでも仲が良くて。
会社とか学校でもムードメーカーみたいな感じの人ばかり。
それから特に言葉を沢山投げかけてくれる人が多かった。
恥ずかしげも無く「愛してる」「君が世界で一番だ」とか言われると、私は弱い。


しかしながら欠点もある訳で。
まず、ムードメーカー的存在という事は男友達に限らず女友達も沢山居るのだ。
だから相手はやましい事無く女の子と食事に行ったりするのだが、それを私が許せなかった。
彼が私を置いて、他の気の合う仲間と出かけるのにも嫉妬してしまったり。
そんで結局は喧嘩して…別れる。
あとは口が上手くて言葉も出し惜しみしないから、女の子も散々口説いていて。
結果的に浮気されて…別れる、とかね。
別れるならまだしも、浮気した彼が「気の迷いだ、お前が一番だ」とか言うと。
私はそれを簡単に許してしまい、浮気を繰り返され。
最後は二度と思い出したくも無い泥沼な状態になったりなどなど。


そんな訳で元彼と別れた後、心機一転…というわけじゃないけれど。
今の彼、晋助と付き合うことにしてみたのだ。
寡黙で、クールで、あまり言葉も話さないようなタイプの男と。
案外とこれが上手いこと行くもので、今のところ大きな事件も無い。
もしかしたらそれは私が一応、過去の過ちを気にしているから…かもしれない。
あくまで、今のところ…ね。束縛しすぎる、とか。重い女って散々言われたから。
だけど、それだけれど。
今まで付き合う男から「君が一番だ」と言われ続けた私。そして寡黙な今の彼…。
あまりに少ない言葉のやりとりに、こちらが一方的に物足りなさを感じているというわけだ。


何ていうか、自意識過剰だよね…こういうのって。
履き違えた馬鹿な女、って感じ。付き合った相手も片手で十分足りてるのに。
なーにが世界だよ、何が君が一番だよ…本当臭い台詞。言われたほうが恥ずかしいわ。
ロマンチストも度がすぎるとキモイんじゃ、ボケ。普通でえぇやろーが、普通で!!


…という事も、ちゃんと自分で理解しているんだけどね。



でも最初は「付き合ってみるか」という割と軽い気持ちで始まっているのに。
実際気付けば私は晋助が好きで好きでたまらなくて。
だからこちらからは散々「好き」って言っている、でも…でもでもでも。
晋助は私の言葉を聞いても「あぁ」くらいで、あまりに気持ちを伝えてこなくて。
それが不安でいきなり「別れよう」って言われたらどうしよう、とか考えて。
段々頭がこんがらがって、ぐちゃぐちゃになってしまうんだ。


私って何なの?本当にこの人は私の事が好きなの?
私ばっかり彼の事が好きみたいじゃん。
別れるって言うならこれ以上好きになる前にしてよ。


こんな風に、勝手に一人で苛立ってしまったり。
何も言われていないのに落ち込んだりしてしまうんだ。



「ねー…晋助」

「…あ?」

「私の事、好き?愛してる?私って世界で一番?」

「…あぁ」

「ちょっと、それなら言葉で言ってよ」

「…」



重い女って思われたくないのだ。
だけど気付くとこんな言葉ばかり言ってしまう、それがすごく自己嫌悪。
嫌われたくないのに、嫌われる要素NO1な言葉を彼に言ってしまう。
黙ってしまった晋助を見ると、不安になる。
不安になるから余計に「私の事嫌いになった?」と聞いてしまいたくなる。
何だ、結局今回も堂々巡りコースに嵌ってる感じ。
過去の失敗を全くいかせていないではないか、これでは。
はぁっとため息をついて、私は諦めたように彼に謝罪の言葉を告げた。



「…ごめん、晋助…重いよね、こういう女」

「…別に」

「分かってるんだけどさ…」

「だから、別にどうも思わねぇって言ってるだろ?」

「…」


今度は私が黙ってしまう。
どうも思わないっていうのは、それはどういう事なのか?
私の事が好きじゃないから、どうも思わないのか?


あぁほら、また。こういう風に考えてしまうネガティブな気持ち。
たぶん私ってそう言うタイプの人間なんだろうな。
くよくよ落ち込んで、いちいち悩んで。
だから今までポジティブで、いつも元気にみんなを引っ張ってくれる男の人が好きになっていたのかも。
そんな事を考える。もしもそれが無意識の中での事実だったら…。
やっぱり最終的には、晋助とは上手く行かないのかな。


落ち込みやすいタイプの私と、寡黙な晋助。
なんだかそんな二人だと、どんどん空気が淀んでいく気がする。
あー…早くも梅雨入りですか、と(ちなみに今6月よ)。
すると晋助が、タバコを灰皿に押し付けて私に向き直ってこう聞いた。


「お前は何を求めてんだ?俺にどうして欲しいんだよ?」

「…え?」

「そう言う面、してんだろ?いつも」

「…」

「だけどそれが独りよがりだって、おめぇ自身も分かってる…違うか?」

「…」

「だがな…そんな面するくれぇなら言ったほうがいいんじゃねぇ?」


言えばいいのか、言わないほうがいいのか分からない。
しかしどう伝えれば?
「元彼は私のこと世界一愛してるっていつも言ってくれた。だけど貴方は言ってくれない、それが不満」
なんて…そんな事、晋助に言えるわけないじゃない。
こんな、傲慢で独りよがりで自分勝手でワガママで、高飛車な感情。
人として最悪だよ、今の私。こちらが思い悩んでいると、晋助はふっと笑った。
笑って諭すように言う。



「『世界で一番愛してる』とでも言やいいのか?」

「…」

「そんな言葉でお前が満足するならいいけどよ」

「ごめん…違う、そうじゃないよね」

「あぁ…そうだよな?なら、そんなしみったれた面してんじゃねぇよ」

「うん、ごめん」

「俺まで気分が悪くならァ」


ごめん、ともう一度うつむいて言うと。晋助はため息をつく。
あー…なんか、ムード最悪。あー…これは別れに向かってのゴールラインが見え隠れ?
やっぱ重い女って思われてるんだろうな。
心に鉛がぶら下がってるみたいだ、どうしたら良いんだろう、この空気。
こんなものを望んでいないのに。私はただ、晋助が好きなだけなのに。

すると、相手はクク…と噴出したみたいに笑った。
一体どうしてここで笑うのかと彼の顔を見ると、晋助は私の頭をクシャッと撫でてこう言った。


「例えば…よ。世界で一番愛してる、って言っちまうと…よ?」

「…ん?」

「『世界で二番に愛してる』って言葉も在るって、そう言うことだよなァ?」

「え…あぁ…たぶん、そうかな?」

「俺がお前に『世界で一番愛してる』なんて言っちまったらよ」

「え、あ…うん」

「その瞬間に『世界で二番目に愛してる女』ってのも出来ちまうんじゃねぇの?」

「…晋助」




それから彼は、そっぽを向いてとても小さな声で私に告げた。
けれども…その呟くように囁くように、聞こえないくらい小さい晋助の声が。
私のネガティブな心を大きな音を奏でながら、ガラガラと崩していくんだ。



「唯一無二のお前に番号つけたって仕方ねぇだろ?第一、二番がねぇんだし…」




愛してるとか好きだっていう響きじゃないのに。
晋助から貰った言葉は、間違いなくそれ以上の意味を持っていた。







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