銀魂夢小説2(高杉)

□金の斧銀の斧(パロ)
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森の中、高杉はぽつんと一人小さな湖の湖面を眺めていた。
時折この場所で独りの時間を楽しむのがちょっとした最近の趣味で。
風にそよぐ水面を眺めながら物思いに耽っていた。
と、その時…ふとしたはずみに煙管を落としてしまったのだ。
しまったと思った時には遅く、煙管は湖の中に消えていく。

「まいったな…」

高杉が独り言をつぶやき、苦い顔をした瞬間だった。
いきなり湖面がぶくぶくと泡立ち、やおらその真ん中から女がスッと現れた。
天人かと腰に携えた刀を引き抜こうと、高杉は構える…が。
警戒している高杉に向って、その女は言ったのだ。

「貴方が落としたのは、この金の煙管ですか?それとも銀の煙管ですか?」


どこかで聞いたことのあるおとぎ話だ。
しかしそれならばもう一つ、出てくるはずだ「普通の煙管」が。
高杉が呆然と、しかし何かを確かめるような顔で女を見ていると。
やはり、その台詞が相手の口から発せられた。


「それともこの普通のちくわぶですか?
ちょっとふやけて一部魚に食べられてますけど、一応まだイケます」



ちくわ…ぶ?


高杉は答えに窮して沈黙した。
己が落としたのは金でも銀でもなく、ごく普通の煙管だ。
別にまぁそんなものはまた買えばいいが、しかし。
選択肢の中に何故ちくわがあるのか。
聞き間違いだろうか?むしろそう思いたい…っていうか、こいつは誰だ。

「え?私?私は女神ですけど」

高杉の心の中を読んだのか、女はそう答えた。
女神って何だよ、よりいっそう、さらにお前は何者だよ。
突っ込みたい衝動に駆られたが、高杉は黙ったままだった。
というか…この状況からしてやはり、3つの中から選ばねばならないのだろうか。
とりあえずちくわは無い。高杉はようやく口を開いた。

「あー…俺が落としたのはよ…その、普通のキ」

「ちくわぶですね?そうでしょう?貴方ならそう言うと思った☆」

「いや普通のキセ」

「ちくわぶですかそうですか、やっぱりね〜」

「だからキセ」

「着せ替え人形はあいにく品切れです」

「…」


何だろう、無性に刀でぶった切りたい。
女神と名乗った相手はどうしても、高杉にちくわぶを与えたいらしい。
けれども貰ってどうしろと言うのだ。っていうかそれなら何も要らない。
高杉は悪夢を見ているのだと己に言い聞かせて、アジトに帰る事にした。
俺は何も見ていない、みなかった、二度と来ねぇと思いながら。
しかしそれを相手は許さなかった。

「待ってぇえええ!!お願いだから待ってぇええ!!暇なのよ〜。
久々の来客だから構ってみたくなったのよおおおお〜」


ぎゃーぎゃーと高杉の背中に向って叫ぶ女。


「馬鹿アホ甲斐性なし、浮気者ちくわ。このちくわ男!!」


高杉は切れた。


「うっせぇんだよクソアマ!!俺ぁただ煙管を落としただけだ!!!金でも銀でもねぇ、ましてやちくわでもねぇ」

「うん、知ってる」



知ってんのかよ。分かってんならさっさと出せよ最初から。
呆れ返ってため息を一つ。
すると女は少々しおらしく、もじもじとしながら高杉に言った。
どうでもいいが、モジモジする姿がとてもウザイ。

「いや昔はこの辺りにも沢山の人が来てくれてたんですけどね。薪を拾いに。
でも今じゃそんなもの必要ないでしょう?昔はね…人間とも仲良くやっていたんですよ?
けれども天人が来てからさっぱり誰も来なくなってしまいまして…だから…その…」


ちぃっと高杉は舌打ちをした。
その女の顔が本当に寂しげだったから。モジモジする姿はいただけないが。
同情してやらなくもない…。高杉は眉を潜めながら言った。

「俺の煙管、返してくれたら…また来てやらぁ」

「…え。本当ですか?」

「ああ…だから返せ」


女はスッと一筋の涙を流し、嬉しそうに笑った。
そうして高杉の前まで水面を歩いてくると、先ほど落としてしまった煙管を手渡した。
…それとちくわぶ。

「おい、ちくわはいらn」

「約束ですよ?絶対…また…来てくださいね?」



女の体はみるみる透けていき、気が付けば手には煙管とちくわぶだけが残った。
そして辺りはまた静かな森と湖だけ…。
高杉は己の身に起こった一連の出来事を思い返し、くつりと笑う。
そっと湖を覗いてみた。透き通るような綺麗な水だ。
美しいと思った、そしてあの女神と名乗った女もまた…よく見れば美しかったと。
悪夢というにはあまりに綺麗だなと高杉はまた笑うと、今度は本当に家路に付こうと腰をあげた。
とその時…。
しまったと思った時には、もう遅かった。
湖面が再び波打つ、そしてその真ん中にはさっきの女。



「貴方が落としたのはこの金のちくわぶですか?それとも銀のちくわぶd」


「いらねぇよ!!!」








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