銀魂夢小説2(高杉)

□情報屋
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高杉晋助という男は全く食えない奴である。
先日の密会も、随分遅れて来た。
何ゆえそのような素行をするのかと問えば

「俺が規則だ」

と。端的に言葉少なに話すのである。
私は情報屋としてかの有名な鬼兵隊に買われている身。
総督である高杉自ら私のような情報屋に会いに来るのは珍しいと聞く。
それゆえ、「俺が規則だ」などと言われてしまえば何も返す言葉も無く。
明日の飯が食えない生活はごめんこうむりたいので「さいですか」などと…。
当たり障りの無い返答をして、仕入れた情報と交換に食いぶちを稼ぐ訳だ。


「何か情報があんのか」


高杉は私の名前など知らない。
彼に己の名前を教え呼ばれたい…と。
少しばかり女としての感情が芽生えてしまうのを堪え私は答えるのだ。

「そろそろ、今のアジト周辺がきな臭いと幕府の犬が…」


そうかと煙管をふかしつつ答える男。
その背中の哀愁は私に慕情という名の感情をもたらす、が。
これは仕事であり、そんな恋だの愛だのという心は必要ない。

短いやりとりを終えて、高杉は笑う。
時折こんな顔をする事に気付いたのは、本当に最近だ。

「高杉様、次はいつぞやどのような情報が必要で?」

「そうさなぁ…」

煙管の煙を吐き出しながら高杉は遠い目をする。
鬼兵隊がここから引き上げれば私はまた別の組織の情報屋になる。
彼と会えるのは、彼らがこの場所に居る間だけで…。
それが終われば二度とは会えないのだろう。

虚無感というのか…。
胸を焦がすような痛みを感じながら私は気丈に振舞う。

「ぼちぼち潮時ってことだよなぁ」

「はい」

「そうか…」

「てめぇは、俺たちが居なくなったらどうすんだ?」


それは、と私は口をつぐんだ。
情報屋としては聞かれても答えられない。
足がつかないように細心の注意を払わねばならないのだ。
自分の素性はいっさい明かさない、それがこの仕事の条件。
彼らが居なくなった後のことまで話す必要性などない。

「申し訳ありませんが、それはお答えできません」

私が答えると、彼は睨みつけながら言った。

「今は俺が主だ、答えろ」

「確かに。けれども高杉様が居なくなられた後は違います」


引く訳にはいかない。
些細なことでもどこかで繋がり、嗅ぎつけられたらおしまいだ。
明日の飯どころか命まで下手すれば危ぶまれる。
私が断固として引かないのが分かったのか、高杉は諦めたようにうつむいた。

しばらくそうしてうつむいた後だ。
ふと顔を上げるとこちらに向って歩いてくる。
私はいつものように今日の分の情報料を貰おうと、同じく彼に近寄った、その時。

「う…」

あろう事か高杉は私の胸倉をつかみ絞り上げた。片手で軽々と。
そして苦しくてうめく私の数センチ先に顔を近づけて、言った。


「おい、女。俺が今欲しいのはてめぇの情報だ。名を名乗れ」




高杉、という男は全くもって食えない奴である。
さらには横暴で自分勝手で感情も良く分からない人物だ。
けれども…意外と私の事を気にかけてくれたらしい。
そしてこれからもそうしてくれるらしい。
私が途切れ途切れに名を名乗った後に、高杉は言い放った。


「てめぇも来い。この先もお前の主は俺だけだ」








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