銀魂夢小説3(高杉)

□事故・紹介
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「…なんつーかお互い災難だな…」

「はぁ、私もまさか後ろから突っ込まれるとは…」

「ああ、まぁ心配すんなよ。俺は訴えたりはしねぇから」

「すいません、せっかくのお休みなのに…ご予定もあったんじゃないですか?」

「謝んなって…つか、予定とかねぇし…聞くなよ、虚しくなるじゃねーか」

「…すいません」

「…」

「あの、ところでですね…高杉さん。こんなところで何なのですが」

「何だよ」

「その節はお世話になりました」

「…」

「覚えていないかもしれませんが…私、貴方に」

「覚えてるぜ、あんたのことは…よく」

「…え?」





事の始まりは1ヶ月と少し前。



ぢゅううううう…。
そんな音を立てて私の手の中にあった紙パックのイチゴ牛乳は中身が終わりそうな事を告げた。
その後スコスコという音がして、さらに「一滴もありません」と主張する。
私は吸いすぎてひしゃげたその紙パックをゴミ箱に放りながら。
(明日は退院かぁ)とぼんやり考えていた。


そのさらに3日前、信号待ち(徒歩)をしていた私に突っ込んできたのは50ccのバイクだった。
ハンドル操作を誤ったらしい。
私は衝撃で近くの電柱に頭から突っ込み、額を5針縫うケガを負った。
一応頭を打っているからと救急車で運ばれ、検査入院とケガの手当てをして貰い…。
異常なしと認められ、翌日は抜糸と同時に退院を迎えようとしていた。

「はー…また、会えないかな」

誰か?って?それは…私を救急車で運んでくれた隊員の人。
事故当時、放心状態で救急車に乗せられた時の事。
頭を打っているという理由で寝かされ点滴をされ、意識ははっきりしていたのにアレコレ質問され…。
あまりの心細さに思わず私は側にいた隊員さんに言ったのだ。

「すいません、手…握っててもらえませんか?」

するとその隊員さんはなんともいえない笑顔をしながら「ああ」と短く返事をして。
私がストレッチャーで病院の緊急外来に運ばれるまでずっと手を握っていてくれた。
確か彼の名前が書かれたプレートには「高杉」とあった気がする。
しかし今となっては気がするだけで、実際はどうなのか分からない。
暖かく、そして強く握り続けてくれたその手…。
顔もよく分からなかったけれど、私はその人にもう一度会いたいと強く願っていた。

入院してから、担当の看護士さんにそれとなく聞いてはみたが。
明確な答えは返ってこなかった。
「緊急外来の看護士さんと私たちは仕事が別だから」とか何とか。
私もよくは知らないが、内科、外科、手術室…など、看護士さんもそれぞれ担当場所があるらしい。
よって私の担当看護士さんは、緊急外来については知りえない…そうだ。
ああ…あの人に、高杉という方にもう一度会いたい。せめてお礼だけでもしたい。
そんな願いも虚しく。翌日私はごく普通に手続きを済ませ退院した。



そんな出来事から1ヶ月が過ぎた本日。幸い何も後遺症もなく、額の傷もさほど目立たない。
会社の同僚達がささやかな快気祝いをしてくれて、元の…今までの生活に戻る。
けれども私の中にはいつもあの手を握ってくれた隊員さんのことがチラついて…。
不謹慎だけれど、救急車とすれ違うたびに「もしかしてアレに乗ってるのかな?」と。
人の生死が関わってるにも関わらずそんな事ばかり考えていた。


「はー…」

車での移動中、私は一番前で信号待ちをしながらため息を一つ。
その辺歩いていないかな、あの人…。
けれども隊員服を着ていなければ分かる訳もない。
というか救急車に乗っていたのはたかだか数十分だ。
その間に出会い別れた人の事をそこまで細かくは覚えていない。
目の前の横断歩道を歩く人たちを眺めながら、ただ赤が青になるのを待っていた。
その時、後ろから車が突っ込んできて。
私は人が歩く横断歩道にところてんのように車ごと押し出され…人を轢いた。




非番でたまたま道を歩いていた、高杉さんを轢いた。






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