緋色に導かれて(再筆)

□微笑みと憂い
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「着きましたよ。僕の一押しのお茶屋さん。」



宗次郎に連れられて辿り着いたのは一軒の茶屋。



「…着きましたも何も、茶屋を目指してたとか初めて聞いたんだけど。」

「すみませーん、焙じ茶と桜餅ください♪…あ痛っ」

「無視なんていい度胸ね。」

「あ、もしかして桜餅ダメでした?」

(この子もう嫌っ。)





「…本当、調子狂うわね、あんたといると。」



隣に並び御茶菓子を待つうち、いくらか落ち着いたのか自然と言葉が出た。



「?どうしてですか?蛍さんの調子で振る舞えばいいんですよ。」

「あなたが妨害するんでしょ。」

「?」

「いや、もういい。」



桜餅を手に取り、味わう。



「…おいしいわね、これ。」

「そうでしょう?なんだかんだ言って蛍さん、甘いもの好きなんじゃないですか。」

「そうみたいね。」



宗次郎はふふ、と笑みを漏らしながら、蛍の横顔を見つめていた。



「…何?」

「いえ…蛍さんって不思議だなぁって思って。」

「その言葉、そっくりそのままあなたに返すわ。」

「…最初に蛍さんとお会いした時、あなたは僕と同じ人間だと思っていました。同じくらいの強さだから。

それに、普通の剣客が持っている気配というものもない。」



蛍は動きを止めた。
思わず彼の方に目を向ける。



「…ただ、違う気がするのは…蛍さんは笑わない。常に何かと戦っているような気がします。覚悟と言うんでしょうか。」

「…」



「僕と正反対なんだけど、同じ強さを持ってるなんて。不思議だなぁと思うんですよね。」

「…不思議ね。私もあなたと同じこと考えてた。」

「あ、そうだったんですか。」



にこり、と笑いかけられた。



「蛍さん、いずれ、また手合わせお願いしますね。」

「ええ。お願いするわ。」




そう言って、蛍は僅かに笑みを浮かべた。

一瞬のその表情を宗次郎は見逃さなかった。





(笑顔ってほどじゃないんだけど…でも…これは…)




「…蛍さん。」

「ん?」

「蛍さん、笑顔の方が似合うんじゃないかなぁ。」



「は?」

「すごく綺麗ですよ。」

「…意味がわからないんだけど。」

「あ、残念だなぁ。無愛想に戻っちゃった…」

「悪かったわね…」



やっぱり宗次郎といると調子が乱れると感じた蛍であった。






「…そろそろ帰りましょうか。」



宗次郎の言葉を合図に頷く。すると。



「…はい。蛍さん。」

「…?何この手?」



目の前に差し延べられた手。意図がわからず、尋ねると。



「繋ぎましょ「嫌よ」」



………


「…えっ、どうして駄目なんですか?」



目を丸くする宗次郎。



「なんで驚くわけ?こっちが驚きよ。」

「……」

「……」

「ふふっ」

「何よ?」



訝しむ蛍。
宗次郎はあっけらかんと答えた。



「あなたは一筋縄ではいかないようですね。」



「…何よそれ?」

「やだなぁ、そんなにむすっとしないでくださいよ♪」

「してないわよ。…変な子だって思っただけ。」



…まったく、笑顔ばかりで読めない。本日何度目かしら、と思いながら蛍は溜め息を吐いた。






(いじわる言わないでくださいよー。)

(率直に言っただけよ。)

(ふーん。案外、蛍さんて素直な性格してるんですね♪)

(…それ以上余計なこと言ったら斬るからね。)



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