緋色に導かれて(再筆)

□糸口
1ページ/1ページ



「…興味本位?」

「はい。」


「全く…!聞いて呆れるわね。」



蛍は頭を抱えた。

場所を少し変え、庭園の陰、死角となる場所に連れて来られたが、当の本人──宗次郎はにこにこと微笑んでいる。


士官の姿をしてはいたが、どうやら管轄外の地に足を踏み入れてしまっていたらしい。時を同じくして下見に訪れていた蛍は、その光景を見て侵入者と判断したのであった。



「…いいこと?やたらむやみに動かないで。そもそも偵察なら私を通せば安全に案内出来るのに。」

「まあまあ。蛍さんが保護してくれたんだからよかったじゃないですか♪」

「……話がまるで通じないわね。」



蛍は帽子を被り直す。長い黒髪は目立たないように結い上げられている。
加えて、宗次郎と同じく黒羅紗に包まれていた為、彼は敵と見紛ってしまったのであった。

宗次郎は彼女の横顔を見つめていた。
背後の薄赤い椿の蕾が風に揺れる。
彼女の整った顔立ちは彩りの少ない冬景色にはよく映えた。



「でも、びっくりしましたね。」

「こちらがびっくりよ…!」


「蛍さんがまさかオカマだったなん「違うから」…いたたた。」



殴られた弾みで宗次郎の帽子が落ちる。



「なんなの?オカマに対して何か固定観念でも持ってるわけ?」

「あー…そうだなぁ。まあ…持たざるを得ないですね。」

「?」



脳裏にはつい先日、襟元に天剣の文字を施した大鎌の彼の姿が浮かんでいた。
ぶつぶつと呟く彼を蛍は怪訝そうに窺う。



「…この恰好は警備に扮する為よ。あと、この場所は特別だから…」

「特別?」

「男性も女性も皆洋装が正装になりつつあるわ、特に明後日のような場では和装は咎められるわね。」

「それなら蛍さん♪」



唐突にぱん、と掌を合わせ、無邪気に微笑みかける。



「ドレス着ましょうよ、せっかく綺麗なんですから♪」

「冗談じゃないわ、あんなの着て警備なんて出来る訳ないでしょ。」

「でも、見たいなぁ。」

「面白がってるわよね?」



蛍は露骨に顔を顰めた。
残念だなと呟いた宗次郎は頬杖をついた。



「……それで、何か手筈は考え付いたんですか?」

「何かの切っ掛けで、標的の懐に入るしかないわね…」



標的に志々雄の情報を提供する体を装い、近付く。これが一番容易い。
ただ、自身が志々雄側の間者でないという証明が出来ない為、警戒される可能性は否めない。

蛍はそう告げた。



「…蛍さんってこんな性格でしたっけ。大胆だなぁ。」

「出たとこ勝負ね。」

「あ、じゃあこういうのはどうです?」

「?」



宗次郎は笑顔で語り掛けた。
蛍に向かって手招きをすると、その耳元に顔を近付けて囁いた。





「……あなたこそ大胆不敵ね…」

「ふふ♪」



そうですか?とあっけらかんと答える彼の様に、蛍は不安要素が拭えないという風に述べた。



「…一歩間違えればその場で死ぬわよ?」

「大丈夫です。と言うのも、蛍さん次第ですから。」



にっこりと宗次郎は微笑みを浮かべた。






(あ、それはそうと蛍さん。)

(ん?)

(あけましておめでとうございます♪)

(…どういう挨拶の仕方よ。)




[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ