罪王冠文

□お節介と甘えたがり
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お節介と甘えたがり



「大丈夫か?少尉」
「…これが大丈夫に見えるわけ?」

作戦後、ローワンがコフィンを覗き込むと、首の後ろを押さえた少年が睨み付けてきた。額には汗が玉になって浮かんでいる。薄ら生理的な涙を浮かべた顔は、苦々しげな色を湛えている。
まあ、当然かとローワンはため息をひとつつき、少年をコフィンから出してやるべく手を差し出した。彼が駆っていたエンドレイヴは、人間でいえば頸椎の位置を深々と刺されていた。オペレーターが死に至るような痛みはこちらでカットしているとはいえ、並の痛みではないだろう。絶叫すらできない彼の様子に、ローワンは眼鏡の奥の瞳を不安げに細めた。

「要らない」

しかし、少年は。ダリル・ヤン少尉は手の甲でローワンの手を払い反対側からコフィンを抜け出してしまう。乱暴にメットから頭を抜き、目元を拭う。
やっぱり舐められているんだろうな、などと思いながらぼんやりとその気怠げな後ろ姿をしばらく見つめる。ややあってから、ようやくダリルへの心配を思い出しローワンは彼を追い掛けた。

「おい、少尉!」
「………何さ」

声をかけると、不機嫌な声が返ってくる。まだ幼いといえる横顔を伺い見れば、睨み付ける目線がローワンを射ぬく。人を殺せそうな視線だな、と内心苦笑し、紫のそれを見返した。

「もし痛みが残るようなら医務室へ…」
「要らないってば!余計なお世話だよ!」
「…でも、」

未だに辛そうに目尻に涙を浮かべる少年が何だか可哀想で、つい食い下がる。他人に頼ることも協力をすることもよしとしない彼が、自分を頼ってくれるとはローワンは微塵も思ってはいない。いないが、気に掛けてやりたいとは思っている。
しかし、やはりというべきか。ダリルは一度首を動かしローワンをきっと睨み付け、足早に基地内の廊下を歩いていってしまう。跳ねた金髪がふわふわと上下に揺れていた。
プライドを傷付けた。それによってまた作戦中に無茶をされては適わない。大きく息を吐いて、ローワンは再度ダリルを追った。

「待てって、少尉」
「………」
「問題無いならいいから、もう少し落ち着いて」
「ああもう!うるさいなあ!!」

歩きながら言葉を繋ぎ続けていると、説教をしたいのか心配をしたいのかが判らなくなる。どっちもなのだろう。ローワンは困ったように眉根を寄せた。ダリルはダリルでそんなローワンを無視しようと決めたようだが、元来常人よりも儚い彼の堪忍袋の緒は、簡単に切れた。角をひとつ曲がったところで、勢い良く振り返る。金色が揺れた。
ローワンは、急にダリルに怒鳴られることには慣れていた。最近は以前よりも身勝手ではなくなったような気がするが、気が短く我儘な性質の少年は変わらずローワンには横柄な態度をとる。元々ローワンの仕事はエンドレイヴのオペレーターのサポートが主であるため、比較的ダリルとは接していたほうである。きっと、同情されているように感じるのだろう。余りに過剰にローワンが彼を心配するたび、紫に映る苛立ちのなかにほんの少し、困惑の色はいつも浮かんでいた。
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