text

□甘い手
1ページ/1ページ


夜。
御幸の部屋にて。



「オマエ、深爪しすぎじゃねぇか?」



御幸が沢村の右手を取り、爪を見ながら言った。




「そっか?降谷に爪のケアしろって言ってたじゃん。だからやってみてんだけど」


沢村は御幸に片手を取られたまま、空いている方の手を眺めて首をかしげる。



「ま、オレは降谷みてーに爪割れないけどな!」


「爪が割れるってのは指によくボールがかかっているって事だからな。キレのいい球投げられるって事だぞ」


「・・・オレは丈夫なのっ!」



(負けず嫌いなヤツ・・・)



「深爪すると、指先痛くなるぞ」


そう言いながら、御幸はヤスリとベースコートを取り出した。


「ヤスリかけて引っかからないようにしとけば、そんな短くしなくても大丈夫だって」

「ヘー。なるほど。ピッチャーたるもの、指は大事にしないとな!」


ハイどうぞ、とばかりに、沢村は手を差し出した。



「・・・俺にやれってか」
「やっ!そっ、そういう話の流れかと思って!」


何故かやって貰えるものだと思ったらしい。


(コイツ狙って言ってんのかな)

御幸は一瞬そう思ったが、沢村は顔を真っ赤にしているので違うようだ。



「・・・あー、貸せ。やってやる」


沢村の手を取る。
左手で指を固定し、器用な手つきでヤスリをかけ始める。



「指削られそうでコワイ」
「うるせぇよ。じっとしとけ」


「これ降谷にもしたのか?」
「・・・やらねぇよ」


「ホントに?」
「あー、じゃあウソ。やったやった」


「嘘だ」
「あーもう、うるせぇなぁ」



一本一本、爪の角を取っていく。


しばらくすると、手を触られるのに慣れてきたようで、大人しくなった。

沢村の手が暖かい。



「御幸、気持ちいい」
「そうか」



手を握られると安心なのは何故だろう。



「寝てイイ?」


そう言うと、手をこちらに預けたまま、テーブルに突っ伏してしまった。



(子供か・・・)



両手指にベースコートを塗り終わる頃には、沢村は完全に眠ってしまった。

寝息が規則正しい。



「そんな姿勢で寝たら疲れるぞ」


小さく言ってみたが、起きる気配は無い。




沢村の暖かい手を握っていると、御幸まで眠くなってきた。



(ま、いっか)



ベースコートが乾くまで、寝かせてやるか。



手を握り合って。
テーブルに頬をくっつけて。




部屋に帰って寝るまで、あとちょっとだけ。





ゆっくり、オヤスミ。



-END-
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ