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□ハートの火をつけて
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降谷くんは、どうも女子に人気があるようだ。


先日の練習試合以降。
俺たちのクラスを覗きに来る女子が、増えた。


確かにあのピッチング姿は鮮烈だった。
見た人の記憶に焼き付いたんだろう。


それに・・・


(背高いし、キレイな顔してるしなぁ)


HRが終わって皆が帰り始める頃。
降谷くんの横顔を眺めながら思う。


皆が興味を持つのも無理はない。

でも降谷はそんな事気にも留めていないようだ。
クラスの女子が高揚した様子で喋りかけても、眠そうにと的外れな答えを返しているだけ。


(ほら、今だって)


ああいうの、天然って言うんだろうな。
多分、僕や兄貴とは対極にいる人だ。


(あ、欠伸した)


可愛い。

…最近、俺は降谷くんの事ばかり目で追っている。



「小湊くん!」
「な、なに?森野さん」

ボンヤリしている時に急に話しかけられて驚いた。
クラスの女子だ。

「ねー降谷くんてさ、いつもああいう大人しい感じなの?」


降谷くんの事考えてたってバレたのかな?
自分の顔が赤くなったのを感じる。


「うーん、どうかな。無口は無口だけどね」
「試合の時と雰囲気違うね〜。試合の時はもっと、凄い人!って感じなのに」


そのギャップがいいんだけど。


でも最近、降谷くんをみてるとイライラする時がある。
彼を気に掛けるようになってから、気付いた事。


俺が降谷くんを目で追うように、
降谷くんは、
御幸センパイを見ている―――――――。


やだな、嫉妬してるのかな。俺。


「小湊」

いつの間にか、俺の席の所に降谷くんが来ていた。


「小湊、部活遅れる」
「そうだねっ。ゴメン、もう行くね?」

クラスの女子にそう告げて、俺達は教室をあとにする。


教室から二人きりで部室へ向かう、短い時間。
何を喋る訳でもないけど、毎日たった少しのこの時間が嬉しい。


あの感情が嫉妬なら、これは独占欲みたいなものなんだろうか。


あとの数分で部室に到着してしまう。

早く野球がやりたいとは思うけど、それは少し残念で。


そうか。


(やっぱり俺は、この人の事がスキなんだ)



それで―――――――
彼は、御幸センパイの事が好きなんだろうか。




あの角を過ぎると、部室棟。
二人きりで歩ける時間は、もうすぐ終わり。



俺は、この人とどうしたいんだろう。
この人は、俺の事をどう思っているんだろう。


一度考えだすと止まらない。
このままじゃ、今日の練習中だってその事ばかり考えてしまいそう。
そして、その視線の先に御幸センパイがいる事を。



(・・・ま、悩んだってしょうがないよね)



ウジウジするのは俺らしくない。


こぶしに力を込めて、小さく気合を入れる。
先手必勝。
いや、勝ち負けじゃないか。


でも、これで向こうが少しでも気に掛けてくれたら儲けものだよね。


「降谷くん」
「?」
「降谷くんってさ、御幸センパイと何かあるの?」
「・・・!」


降谷くんが立ち止まってこちらをみる。
ちょっと単刀直入すぎたかな。
無表情だけど、ビックリしてるのがよく分かる。


やだなぁ。

図星?
ちょっと傷付くじゃんか。


でも引かない。
言わないで悩むよりはずっといいもの。
ニッと笑って見せて、俺は続ける。

「分かるよ。御幸センパイと何かあるんじゃないかって、分かる。いつも見てるもん」
「・・・」




「俺、君の事スキだから」


言い終えてすぐ、自分から視線を逸らす。
反応は見ないで、先に部室へ入った。
もし見たら、無表情の中から困惑を読み取ってしまいそうだったから。


・・・・


「春っち、メチャメチャ顔赤いぞ!熱あるんじゃねぇ?」
「大丈夫だよ。ちょっと急いで来ただけ」

栄純くんに元気に心配されたけど。

全然大丈夫。
今日はいつに増してやる気なんだ。



―――――――流石に今日くらい、俺の事気に掛けてくれるかな。



今すぐは無理かもしれないけど。
きっときっと、御幸センパイに追いつくから。


ちゃんと、俺の事を見て貰えるように。


-END-
 

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