□私立春川学園!
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それは飲み物を買いに行った昼休みの、
ほんの少しの時間のなかで起きた事件でした。


「なあお前名前なんていうんだ!?俺は辻田良だぞ!良って呼んでくれよ!」
ああ困った。
本当に困った。
目の前の黒いもじゃもじゃ君が海の手を掴んで離してくれない。
痛いなあ…、結構力強いんだな…。
どうしよう…、翠ちゃんの所に行きたいのになあ…
別校舎の自販機に行こうとか思った海のばかぁ!
「おい、何黙ってんだよ、折角良が名前聞いてんのに。」
「…、」
しかも取り巻きの子が怖いよー!
何でそんなに睨むの!?
発言してない子は明らかにうちのクラスにいなきゃ可笑しい不良くんだし、
更にその隣の子は見た目爽やかなのに凄く黒いし!
海があうあうしてると、
「ダメだぞ!怖がってるじゃんか!…お前も安心しろよ、俺がいれば大丈夫だから!!」
「う、ん…。」
一向に睨むのを止めない取り巻き君たち。
ああもう嫌になっちゃう!
分かったよう!教えるから!
「…紫藤海斗だよ?えっと、良くん?」
ちょっと疲れた顔だったかもしれないけど、
名前を教えてもらって嬉しいのか、呼ばれて嬉しいのか、一気に目の前の黒もじゃ、良くんは
ぱぁ、と顔を明るくした。
とはいっても半分は髪の毛で見えないけど。
見にくくないのかなぁ?
「そっか!海斗っていうのか!可愛いな!」
可愛いのは当たり前だよお、という言葉は飲み込んで愛想笑いをする。
だってまだ睨んでるんだもん!
最早乾いた笑いしかこぼれない。

そろそろ翠ちゃんに会いたくて手をそ、っと離し、
「ごめんね良くん、海今からご飯なの…待ち合わせしてるから行ってもいいかなぁ?」
と今度は残念そうに言ってみる。
すると良くんは
「じゃあ一緒にたべようぜ!今から俺達も食堂に行くんだ!そいつらも連れてこいよ!」
明良たちと食べるんだー、とニコニコしている良くん。
海は早く行ってほしいなって思いで遠まわしに言ったのに!
恐るべきKY!
海も苦手だけど、翠ちゃんは大っ嫌いなタイプ!
「あ、あのっ、」
はっきり言わないと分かってくれそうになくて、
まあはっきり言ってもダメそうだけど、
ちょっと大きく声を出した所で、
「良、いい加減にしろ、早く行かねえと昼休み終わるぜ?それに紫藤が困ってるだろ?」
「そうだよ良、こんなブス置いてさっさと行こう?俺お腹空いたな。」
空気を読んだ救いの手!
ブスって言われたのはこの際もういいや!
「えっと、本当にごめ、」
「やだーーー!!俺は海と食べたいぃ!
海もそうだろ?俺と食べたいよな!?海の友達もずりぃよ!海を一人占めするなんて!
そんなことしたら海に友達できないじゃないか!
でも大丈夫だぞ?俺がそいつにちゃんと言ってやるからな!そうだ!今から言おう!海は何組だ!?」
やだ何この電波ちゃん!?
翠ちゃんの言葉を借りるとスペック高すぎだよお!
どうしよう!本当にどうしよう!
翠ちゃんと食べる時間無くなっちゃう!
助けて欲しくて、意外と一番まともな不良くんに目を向ける。
一瞬目が合ったあと、諦めろというように首を振られた。
一応爽やかくんにも目を向けると、今度は
行くよな?的な顔でにっこりされた。
四 面 楚 歌 !
こんなのでお勉強したくなかったよぉ!
まだ何組だだとか、こっち見ろよ、みたいなことを喚いている良くん。
困りに困って泣きそうになっていると、
「海ちゃーん!」
「翠斗くんが心配してたよー!って誰よそいつ?あれ南雲もいる。」
「あっ!」
後から声が聞こえたと思ったら、クラスメートの林くんと小出くんがきて、声を掛けてくれた。
そしてさり気無く海を後に隠してくれる林くん。
そういう所がモテる秘訣なんだろうなぁ、なんて思いながらもその状態にいることにした。
小出くんは南雲くんと呼ばれた不良くんと知り合いみたいで、お喋りをし始めた。
「何だよお前!今俺は海斗と喋ってたのに!」
「話してたっていうか、お前が一方的に叫んでただけじゃん?」
「すっげぇ響いてたけど?」
南雲くんと話終えた小出くんも海を庇って、
前に立ってくれた。
壁ができて、良くんがどうなってるか知らないけどやっぱりぎゃんぎゃん喚いていた。
つい林くんの服の裾を掴んでしまう。
それに気がついた林くんは振り向いて、
「何あったの?」
とコソッと聞いてきた。
どうやら良くんと、いつの間にか参戦した爽やかくんは小出くんに任せたみたい。
林くんも大人だけど、小出くんはもっと大人だから、うまい対応してくれるだろうなぁ、て思った。
それを見てちょっと息をついてから今までの経緯を話す。
へー、とかふーん、とか言いながら聞いていた林くんは、
「それってもう翠斗くんに頼った方が良くね?」
「で、でも迷惑かけちゃうっ、」
「んー、俺等でどうにかしたいんだけどさー、何かほら…、」
「あ。」
林くんの言葉にふと前を見ると、若干顔の引きつった小出くん。
「あいつ滅多にあんな顔しないんだぜ?よっぽどなんだな、黒もじゃ。」
「そう、なんだ…。」
「そ、だからもういっそこいつ等連れて、翠斗くんの所いこう、変にあしらってストーカーされたら怖いじゃん?ね?」
「でもぉ・・・・、」




結局、海は林くんの言葉に頷いて、翠ちゃんの所に行く事にしました。
林くんも小出くんもほっ、と息を吐いていたので、疲れたんだなぁって思いました。
海のせいで翠ちゃんに迷惑かかるのは嫌だけど…。
ストーカーされたらもっと翠ちゃんに迷惑掛かっちゃうってことで了承したんだぁ。
「良くん、今から海のクラスに来て?」
林くんの後から良くんの真正面に移動して言う。
そう言うと嬉しそうに頷くんだけど、
何だかそれがちょっと恨めしい。
…ああ翠ちゃんごめんなさい!
心の中でいっぱい謝って、クラスへ向かうべく、良くんたちを連れて歩きだした。

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