□白雪君と木村君
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カードキーを差し込んで、乱暴に扉を開ける。
そのまま部屋に入り寝室へ。
今朝、起きたときと変わりないベッドへ体を預ける。
「・・・・・糞眼鏡。」
すん、と息を吸うと残り香が鼻腔をくすぐってきて、惨めな気持ちになってきた。
何でいつもこうなんだ・・・。
涙が滲んできそうで顔を思いっきり布団に押し付ける。
その時背後で扉が開く音がした。
ああ、帰ってきたのかのぼんやり思う。
「・・・おい木村。」
「・・・・。」
「木村、無視すんな。」
「・・・うるさい。」
ちょっと身じろいで、押し付けていた顔を離す。
そこには、案外近くに白雪の顔があった。
「木村・・・。」
声は優しい。
いや頭を撫でる手つきも、俺と合わせる目つきも優しい。
一気に目頭が熱くなって、もう一度布団に顔を押し付ける。
「・・なあ木村ぁ。」
「な、にっ、」
「顔上げろよ。」
以前声も手つきも優しいままだ。
何だか悔しい。
「いやだ、」
「お願い・・・な?」
お願い、と再度耳元で囁く。
俺がそれに弱いのを知っていてやっているんだからズルイ。
ちゅっちゅ、と更に耳にキスをされればもう従うしかないではないか。
のろのろと顔を上げれば、ホッとした顔の白雪。
「やっと顔見れた。」
「っ、」
今度は目元にキスをされて涙を吸われる。
「恥ずかしい奴・・・。」
「お前が可愛いから。」
「・・・お前はカッコいいよ馬鹿。」
「どうも。」
体を起こして、座り直す。
そこへ白雪も隣に座ってきて、二人分の重さで少しだけベッドが軋んだ。
「「・・・・」」
暫く二人の間に沈黙が流れる。
その沈黙を破ったのは白雪だった。
「・・・眼鏡、もう一回掛けて?」
「・・・・やだ。」
「何で?」
そう言って目を合わせてくるので俺は白雪の肩に顔を押し付ける。
ぐりぐりしてると、くすぐってぇ、と頭上から聞こえてきた。
「・・・て言った。」
「ん?」
「っ、似合わねえって言った。」
また滲みはじめた涙を乱暴に手で拭う。
その手を白雪が握ってきて、
「ごめんな、ごめん。」
と言った。
その言葉にもっと涙が出てきて止まらなくなった。
「っ、言ったのお前じゃんか、ばかぁ!
似合わないって言ったじゃんかぁ!」
掴まれてないほうの手で涙を拭う。
それでも止まらない。
「うん、嘘だから・・・似合わないって言ったの、見た時すっげぇどきどきした。」
「嘘っ、」
「嘘じゃない、お前すっげぇ可愛いから。」
「うううううううっ」
「な?お願い、掛けて?」
またお願いって言った。
弱いのに・・・。
白雪の手にはいつのまにか外された眼鏡が握られていて、
「顔上げて?」
くい、と顎に指を掛けられて顔を上げさせられる。
そしてそのまま眼鏡が、俺の顔に。
また似合わないって言われるのが嫌で、
つい俯いてしまうそうになる。
でもそれは叶わなくって、
「うん、超可愛い、木村可愛いよ。」
今度は両手で頬を挟まれて目を合わせられる。
可愛い、可愛いと何度も言ってきて、
唇にキスをされた。
軽く音を立てて直に離れていくようなキス。
ふ、と微笑んでいる目の前の顔がすげえ好きだな、と思ったから、震える声で、
「お前は、カッコいいよ・・・。」
といって今度は俺からキスを仕掛けた。




今更だけど、眼鏡のままのキスはやり辛くて嫌だと思った。
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