□私立春川学園!
2ページ/2ページ

彩芽はその場から動かない、喋らない。
こちらが寄ってくるのを待っているのか、
面倒なのか…恐らく後者だろう。
昔からこういうヤツなのだ。
仕方無しに芝生を踏みしめて彩芽に近寄る。
なんつうか…
「でかくね?」
「…お前が縮んだんだろう?」
「まだそれは無ぇな…声変わりもしたのか?」
「多分な。」
こいつ消える前に聞いた声は、記憶が確かならボーイソプラノといった感じの声だった筈だ。
背だって俺よりも低かった。
今こいつ190近いんじゃね?
…随分とまあ、
「男前になったな。」
「?よく分からん。」
そうか、と呟いて芝生に腰を降ろす。
吸っていたタバコを持っていた携帯用の灰皿に押し込む。
その動作を見ながら彩芽も俺の隣に腰掛けてきた。
「…なんでいきなり消えたんだ?」
「俺は消えてない、ここにいた。」
「お前にとってはそうだな。」
「ああ。」
「百合子さんが心配してたぜ?」
「そうか。」
「いい加減授業出ろよ。」
「それは……面倒だ、視線が気持ち悪い。」
「そんだけ綺麗な面しときゃな。」
「男の顔を見て何が楽しいのか分からん。」
心底分からないといった顔をして、
といってもほぼ無表情だが、首を傾げている。
「でもまじで心配してるぜ、百合子さん。」
「…。」
「どうやったら行くんだよ学園。」
ここも学園内だけど、という言葉は飲み込んで息を小さく吐く。
「・・・・・・たら、」
「あ?」
「お前が王子様を連れて来たら。」
「・・・・・・・・西園寺あたりか?」
まさかの王子様。
図体に似合わずメルヘンな言葉に随分と間が開いてしまった。
「違う。」
「あ?じゃあ生徒会か?」
俺の知っている王子様とやらは西園寺というやつと、中等部生徒会だけだ。
「金髪も茶髪も黒い髪もダメだ、ありきたり過ぎる。」
「へえ、そりゃほとんど当て嵌らねえな、何色がお好みだよ?」
「赤だ。」
「赤?なんで・・・ってああ、好きな色か。」
「そうだ、だが中途半端な色はダメだ、深紅がいい。」
そう言った後芝生に寝転がって、俺に背を向ける。
完全に寝る体勢に入ったらしい。
「じゃ、俺が赤い髪の王子様を連れてきたら学園に来るのか?」
「そう、だな…簡単ではないだろう?
赤い髪なんてこの学園ではほぼいない。」
「そうか?うちのクラスじゃ結構いるぞ?」
「中途半端ではダメだ。」
一度だけ見たあの深紅がいい、
ぽつりと呟かれた言葉。
どうやら忘れられない人物がいるようだ。
そこからは一切何も喋らなくなって、
耳を澄ませば規則正しい息遣いが聞こえてくる、
どうやら寝に入ったらしい。
これ以上は居ても無駄だろうと思い、
ズボンについた埃を落としながら立ち上がり出口へ向かう。
…そういえば帰り道が分からない。
「ま、歩いときゃ着くか。」
そう思い直して足を進めて、この森の出口へ歩き出した。






























それから俺が深紅の髪の“王子様”を連れて行くのは、また暫く時間がたってから。
それはまた二年後の、あいつらが来た後の話。
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ