プラチナ編


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 二階はプライベートスペースだったのだろう、幾つかの寝室や子供部屋が見受けられた。
 ヒカルは、その中の一つである旧型テレビの置かれたを覗き込んでいる次第であった。

 きっと、一家はこのテレビを囲みながら団欒の時間を過ごしていったのだろう。元気の良い子供達、威厳のある父親、優しい母親、頼れる祖父…………そんな家庭が、ここにあったはずなのだ。悲しさよりも、逆に虚しさの方が胸に去来する。

 くすくす、くすくす。
 くすくす、くすくす。

 幼い少女の笑い声が耳を突く。

 ――「忽然と消え失せた一家の、お爺さんとお孫さんである小さな女の子が――」

 幽霊として出る。
 そう、モミは言った。
 あの大気になっていくように消え去った老人が消息不明となった一家のお爺さんだとすれば、この声の主はおのずと分かる。

「女の子、か」

 長女か次女が、はたまた三女か。それとも一人っ子だったのか。真相は定かではないが、年端もいかないいたいけな女の子であろうことは声を聞く限り、ヒカルにでも予測できる。別に幽霊の存在を信じているわけではない、だがこうも連続して超常現象を経験すると、どうしても信じてしまう心持ちになってくるのは道理であった。

 もっと遊びたかったのだろうか?
 もっと生きていたかっただろうか?
 もっと家族といたかっただろうか?

 ヒカルには分からない。
 きっと誰にも分からないだろう。
 今なにを考えてこの洋館を彷徨っているのかでさえ分かりっこないのだから、それは当然のことだとも思えるが。

 そんな不確かな疑問が、ヒカルの頭の中で旋回を始めた時だった。


 じじじ、とテレビが唸った。

「ぽ、ぽたーっ!」

 進化して若干低くなった鳴き声で、危機感山盛りのラズワルドに応じる形で振り向くと、びりびりと音を立てた影としか形容できない物体が飛びかかって来た。

 ヒカルがかわせたのは、ほぼ僥倖と言っても差支えない。
 さながらバンブーダンスでもするような避け方をしたので、盛大に尻餅を着いた。

「っつう!」

 痛みに喘いでいる暇はなかった。この瞬間にも胸辺りに落ちてきそうな「あれ」が落ちてこない。どうしようもなく頭がスースーするのだ。落ちてはいないかと見回してみても、「あれ」がない。ラズワルドも騒いでいる。

「ぼ、帽子が」

 ない。

 落としていないとすれば、おのずと求められる答えは一つしかない。正答に辿り着くと、ヒカルはすかさずラズワルドをボールに戻して走り出した。

「待てっ!」

 じじじ、じじじと鳴く影は、すぐ隣の子供部屋へと飛び込んだ。
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