ファイアレッド・リーフグリーン編
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「お! トモエ!」
「おーシゲル……って、にーちゃんもいるんだ」
「……ん」
ポケモンセンターのロビーには、シゲルとサトシの顔触れが揃っていた。
サトシは手刀を直角に上げて存在を知らせる。
「ねぇ」
トモエが不気味なものでも感じ取ったかのような口調で、ぐるりとロビーを見回しながら言う。
「これってどういうことなのさ……?」
「どうもこうも、今夜は俺とシゲルとお前以外宿泊客はいないらしい」
シゲルとサトシ以外、ロビーにはトレーナーも、それ以外の人影も見当たらないのだ。
ニビでもハナダでもクチバでも、ポケモンセンターとはトレーナーで賑わうものだとイコールで結びつけられるくらいには人でごった返していた。それが暗黙の了解ならぬ暗黙の常識であった。
「聞いてみるけどさ……、これってどうして?」
「知るかよ」
知ってたらもっと気分がいいはずだぞ――とシゲルは腕を組みながらぼやく。
「……ポケモンタワーでの幽霊騒動が原因だと思う」
サトシが無表情のまま話し始める。
「幽霊騒動?」
「はぁ? 俺は初耳だぞ。お前さっさと言えよなー」
口を尖らせるシゲルを尻目に、滔々と騒動の発端を語った。
「このシオンタウンでボランティアハウスっていう、身寄りのないポケモンを拾っては世話をしていたフジ老人……昔は敏腕の科学者をしていたって慈善家さんが、一週間前にポケモンタワーへお墓参りにしに行ったっきり、帰ってこないんだってさ。それに、前々からポケモンタワーの幽霊ってのは結構有名な話で、何人もの目撃者を生んでいるんだ。だから、やって来たトレーナーのみならず、町中が噂しているんだ――フジ老人は、ポケモンタワーの幽霊の手にかかって、あの世に連れ去られたんだって」
「なんか、都市伝説特有の嘘臭い雰囲気が拭えないって感じだね……。ねぇシゲルもそう思うでしょ――」
一瞬、それが誰だか分らなかった。
比喩するなら、サンドのまるくなる。
シゲルが耳を塞ぐポーズで黒い背中を縮こまらせていたのだ。
「幽霊なんていない幽霊なんていない幽霊なんていない幽霊なんていない幽霊なんていな――」
「あ! あそこに腕が三本で眼窩を晒した童女が――!」
「うわああああああああっ!」
シゲルはソファから転げ落ちた。
勿論、トモエの指差した先にはガラス製の自動ドアが無機質にあるだけで、腕が三本で眼窩を晒した童女がいるはずもなく。
その後も「幽霊なんていない幽霊なんていない……」と念仏の如く唱え続けるのであった。
サトシ特有の淡々とした語り口調も確かに怖いが、なによりシゲルがこの手のホラー・オカルト系が過去のある出来事によって、まるっきり駄目になったということに関係がある。