ファイアレッド・リーフグリーン編


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 その昔。
 トモエもサトシもシゲルも皆揃って保育園に通っていた、あどけなかった時代の話である。


 真夏に行われた「保育園に泊まろう!」というベターな行事の中で、定番の肝試しがあったのだ。
 保育園の裏手には大きなお寺とその向こうに由緒正しい歴史を持つ祠があり、納涼にはもってこいな環境だった。

 幽霊役には保護者が参加したのだが、何故かトモエは、

「おどかすやくやるっ!」

 と言って聞かなかった。

 どうにもこうにも頑な過ぎたために、特別参加として、トモエも幽霊役に加わった。勿論、突発的過ぎたために、サトシとシゲルは知る由もなかったわけだが。


 そして行われた肝試し。

 まるで予定調和のように、サトシとシゲルのコンビが最後にやって来た。

 尚、トモエはこの二人が来るまで他の園児達を脅かさなかったのは言うまでもない。先に帰って来た園児達のネタバレを未然に防ぐためだ。そういったところは今も昔も抜かりない。

 保護者の方々は、釣り竿にぶら下げたこんにゃくなどの、ごくありふれたものであったので、先に帰って来た園児達は「つまらなかったー」や「ふつうすぎー」などと言ったブーイングが上がっていたために、幼き頃は冷静さに欠いた部分のあったシゲルは舐めきっていた。

 肝試しの内容は、お寺をぐるりと遠回りしてから祠にあるお守りを取ってくるというシンプルなものである。

 二人は意気揚々と(特にシゲルが)、お守りを奪取してこようと薄暗いお寺へと向かって行った。



 結果は――約1名、最も幽霊に近しい存在になって帰ってきた。

 お岩さんに扮して長時間手を氷水に浸しておいた用意周到なトモエに足首を掴まれ、転倒したシゲルは、彼女の……皮肉にも文字通り鬼気迫る演技に断末魔の叫びを上げた。その叫びは、スタート地点兼ゴールにて待っていた保護者と園児達の耳にもしかと届いたほどである。
 帰ってきたシゲルは……泡を吹いて気絶した状態になってサトシに負ぶわれ、お岩さんの格好をしたまま腹が捩れそうだと必死に笑いを堪えるトモエの手によって帰還した。


 のちのシゲルはと言うと、肝試しがあった後の一週間は暗闇が怖くてろくに眠れず、なんとか時の恩慈悲で忘れていったが、今でも怪談話になると当時のトラウマが呼び起こされ、手の施しようのない事態になってしまうということなのだ。
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