プラチナ編
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ヒカルが昔、ホウエン地方の歴史的都・ルネシティに家族旅行をしにいった時の話だ。
なにやら古代ポケモンが復活されてしまったとかで、町は大雨に日照りの大騒ぎだった。
ルネ全体は沈みかかり、ヒカル達家族の宿泊したホテルは高台にあったが、その被害は尋常なものではなかった。
双眼鏡を覗けば古代ポケモンと視線が合うような位置。されどバケツを引っ繰り返したどころかルネシティをまるごと引っ繰り返したかのような激しい雨の所為で非難さえできない状態であったため、ヒカルも困り果てていたかと言えばそうではなかった。
寧ろ楽しんでいた。
テレビで各局実況される映像も見ながらエンジョイしていた。勿論、生きて帰路につけるかも分からない中で、両親は意気消沈の絶望感に苛まれていたが、まだまだ子供なヒカルには「死ぬ」だなんて遠い世界の話だったのだ。
だからこそ、ポケモンリーグの生中継を見ている時以上の迫力で繰り広げられる、姿を見たことも名前を聞いたこともない古代ポケモン二体が戦っている様は、アミューズメントパークのアトラクションに過ぎなかったのである。
その戦いが一層激しさを増していた時だった。
ホウエン地方のローカルネット局の名物リポーターらしい女性(マリと画面には表示されていた)が、鉛玉のような雨粒に襲われながら声を張り上げたのだ。
「なっ、なんでしょうかあれは……っ!?」
お土産に買っていたフエンせんべいを齧りながら、突然の嬌声にヒカルはテレビに齧りついた。
「お――女の子!? 女の子です! 女の子が、古代ポケモンへ向かっていきますっ!」
リポーターのマリさんの言う通り、女の子だった。
自分よりも少々年上だろうか……いや年齢は然程変わらないような女の子が、飛行する自身のポケモンに跨って、一直線に飛んで行く。ヒカルはその姿に目を奪われた。
いや、目を奪われたのは、その謎の少女トレーナーの輝かしい瞳であった。
意志――揺るがない意志の強さ。
鋼や岩よりも硬い、圧倒的に絶対的に硬く強靭な意志。
綺麗な瞳に宿る、闘志の炎。
この世を破滅させんとしている古代ポケモンに打ち勝たんとしている者の、神に逆らう決意。
テレビ画面の右上にあるLiveの文字や吹きすさぶ雨に邪魔されながらも、その映画のヒロインのような女の子の必死に抗う強さが深く刻まれた表情が見て取れた。
ヒカルは、その時胸に宿った焼け付くような感動を、今尚昨日のことのように思い出すのだ。