プラチナ編
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とりあえず二〇一番道路を抜け、隣町のマサゴタウンのフレンドリィショップでトレーナー用品を購入したヒカルは二〇二番道路も通り越し、早くもコトブキシティにいた。
オレンジ色に輝く日が地平線に沈む前に着けたので、ラッキーと思うヒカルであった。
コトブキシティは、ヒカルがフタバタウンから出発する直前に見ていたテレビ番組を制作していた放送局・テレビコトブキ本社の建つ、フタバタウンとは比べ物にならないくらい栄えた人の集う街なのである。
ポケッチやそのアプリケーションを製造するポケッチカンパニーやコトブキトレーナーズスクールなどなど。大スクリーンの下は待ち合わせスポットとしても有名である。
数々のトレーナーに勝負を挑まれ、相棒のポッチャマのレベルも上がってきて、今はポケモンセンターのロビーで休んでいるところだった。
「そういえば……、ポッチャマにニックネームをつけていなかったなぁ……」
ポケモンにニックネームをつけることは珍しくない行為だ。寧ろポケモンとの距離を縮めようとするトレーナーのよくすることであり、そのことをヒカルは知っていた。
「うーん…………」
ポッチャマを抱き上げ、悩むヒカル。
時折ポッチャマの柔らかなお腹を突っつきつつ、ぶつぶつと数多の単語を唱えている。
「よしっ」
ヒカルは明るい顔でポッチャマを見つめる。
「ポッチャマ、今日からお前を――――ラズワルドと呼ぶ」
「格好良いんだけど、ポッチャマにその名前はどうかと……」
「アラビア語でラピスラズリの意で、青色が主体だから」
「それは凄く良い由来だけど……」
横にいたのは……なんということだろうか、あのジュンが熱を上げる女の子・コウだった。
「って君、ナナカマド博士からポケモンを貰った――」
「ヒカルです」
「――ヒカル君じゃない。今旅の途中?」
コウの言葉に、ヒカルはこくりと一回首肯する。
「じゃあこれ。キャンペーンで引き替えた新品のポケッチ――わたしトレーナーズスクールの友達から好きな色の奴貰っちゃって、持て余していたんだ。もしまだ持っていなかったら貰ってくれないかな?」
ポケッチ、正式名称ポケモンウォッチ。
ポケッチカンパニーが製造する、シンオウ地方を中心にブームを広げているトレーナーのためのデジタル腕時計だ。
……と言っても単なる腕時計では、ここまで流行を広げてこなかっただろう。他と違うのは、ポケッチカンパニーの開発しているアプリケーションをダウンロードすることで、自分好みにカスタマイズできることだ。
コウの持っているポケッチは、つい最近販売の始まった最新機種であるようだった。
受け取らない特別な理由もない。
「勿論。そんなキャンペーンあるなんて、元々知らなかったし。危うく知らないままクロガネシティに行っちゃうところだったから、丁度良かったくらいだよ」
「そう、ありがとう」
と、誰もが見とれるほどの輝かしさでコウは微笑む。
「ヒカル君って、ジムに挑戦するの?」
こくりと首肯するヒカル。
「目指す人がいるから」
「そうなんだ……。わたしもね、ついさっき出発したばっかり」
博士のお使いじゃなくて、シンオウ地方一周のね、とコウは目を細める。
「わたしも夢だったんだ……。やっと……やっと……!」
「叶ったんだね」
うん、とコウは嬉しそうに首を縦に振った。
「だから、ヒカル君のライバル」
コウは含みを持って言うと、腰に付けたモンスターボールを高く放り投げる。
軽快な破裂音を伴って出てきたのは、ナナカマド博士からヒカルとジュンが貰った三体のうちの残った一匹、わかばポケモン・ナエトルだった。
くすぐったそうに頭の双葉を振ると、「なえー」と一声鳴いた。
「わたしの相棒!」
挨拶をさせようと、ヒカルは抱き上げていたポッチャマのラズワルドを床に下ろし、面と向かわせる。
ラズワルドは胸を張って爪先立ちとなり、「自分は偉いんだぞ!」と全身でアピールをするが、ナエトルの口の先っぽでちょんと突かれただけで尻餅を着いてしまった。
道中で技検索のために見たポケモン図鑑で、ポッチャマは人の手から食べ物を貰うのも嫌がるほどプライドが高いらしいと書いてあったがが、全てが全てそういうわけではないようだった。
現にラズワルドはバトルもしていないのに、半泣きで屈しかけている。なんとも先が思いやられる光景であった。