プラチナ編
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前回に引き続き、暴力……というより流血描写がありますので、気を付けて下さい。
だんっ、だんっ。
血の流し過ぎて意識が朦朧とする中で、ヒカルはドアに体当たりを繰り返していた。
腕を縛られているため、体当たりしても上手く受け身が取れずに、幾度も体を床に打ちつけているのだ。もう心身共にぼろぼろであるにもかかわらず、ヒカルはまたドアにぶつかる。そして洗濯物を巻き込んで倒れた。
窓から差し込む陽光はオレンジ色となり、時間の経過を窺わせる。
「くそ……っ」
時間が経過した、それは暗に女の子が人質を取られての時間経過と同意義なのだった。
あの子と父親が辛酸を舐めるような思いに晒されて、一体どうなったのだろうか。ただただその忌まわしい疑問だけが脳裏にまとわりつく。
体を起こそうとして、倒れる。
ああ、なんて自分は非力な存在なんだろうと、悔しくなる。
らる、と声がした。
唐突で、頭の中に響いてくるような声。ヒカルは周囲を見回してみるものの、姿形も影さえも見当たらない。
とうとう自分の頭は幻聴まで生み出すようになっってしまったのかと自嘲気味に思いつつ、再び体当たりをしようと体をくねらせたところで「らる……」と今度ははっきりと聞こえた。
くいくいと服の裾を引っ張る。
「…………ら」
ラルトス。
きもちポケモン・ラルトスがいた。
怖がっているように見えるが、片手に持ったタオルをそっとヒカルの額に当てたことから、怪我を心配しているようだ。
「ありがとう……」
ラルトスは照れ臭そうに笑った。
「ら、ラルトス。お前はここのポケモンなのか?」
こくりこくりと首肯する。
よく見れば、このラルトスは平均よりも小柄だ。それにあのギンガ団がこの部屋を人質の待機場所としたために、発見を免れたのだろう。元々敵意を感じると隠れてしまうポケモンなのも相乗効果としてラルトスを救ってくれたんのだ。
「お願いだラルトス、協力してくれ」
ヒカルはこうべを垂れる。
「あの子を助けたい。……巻き込まれてしまったからとはいえ、あの女の子は無関係だ。あんなに小さな子が苦しめられる姿なんて見たくない」
純粋なる願い。
勿論ヒカルは新米ポケモントレーナーであり無力な子供でもある。正義のヒーローではないのだ。ましてや女の子とその父親(そして同僚さんが幾人か)を助けるなんて、土台無理な話なのである。
「でも……助けたい」
無力で非力なのは百も承知。
だけど助けたいという頑固者の我儘。
「お願いだ……っ」
飛行ポケモンに乗った少女になんて届かないのかもしれない、けれど自分とポケモン達に誇れる人間でありたい。
ちょんちょんと二回つっつかれ、ヒカルが顔を上げるとラルトスは自信満々に微笑んだ。
「きょ……協力してくれるのかっ?」
ラルトスは大きく一回頷いた。すると手首を拘束していた縄が消失する――テレポート、エスパータイプの物体移動技であった。レベルこそ高くはないが、頼りになることは明白だった。
ヒカルは縄の痕で赤くなった手首の感覚を確かめる。
動かせるし、血も出ていない。
「――――よし」
覚悟を、決める。
「いくぞっ!」