プラチナ編


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 眼前に広がっていたのは、視界いっぱいの白い壁だった。
 否、壁ではない。ヒカルは真上を向かされているのだから、それは十中八九天井だ。清潔感溢れる白い天井がそこにあり、鼻孔を突く独特の薬臭さと柔らかな布団で、ここが病室であることを理解した。

 こわごわしながらも、周囲の状況を瞳に映すべく、ゆっくりと怪我に障らないように上体を起こす。
 しかしヒカルの予想以上に体の具合は最悪らしく、体中30歳は歳をとったように軋んで、電撃を流し込まれたかのような痛みが駆けずり回られた。

「うぐっ!」

 どさり、と前屈姿勢で倒れ込むヒカル。

 ああ、自分はあの後病院に担ぎ込まれたのか――と消去法で割り出された事実を全身で受け止める。ずっと夢の中にいたような気分で、不安定な浮遊感がヒカルの全身を包み込んでいるままだった。そのため、まだ意識がはっきりしないからか、やたらと理解が遅かった。

「こ、こは……?」

 上手く震えない声帯で発した声は酷くか細いものだったが、やっと絞り出したものなので仕方ない。病院であるのは分かるのだが、「どこの」病院であるかが重要なのだ。


 それ以上に。

 マーズはどうなった?
 女の子と父親と、他の人達は?
 無事なのか?
 ラルトス――いやキルリアは、どうなったんだろうか?


 早鐘になる鼓動と嫌に膨らむ悪い予感を抑えきれず、自己嫌悪の深層に叩き落とされそうになる。

「あ、おにいちゃん!」
「きる!」

 クリーム色のカーテンから顔だけを出す形で、あの女の子とキルリアだった。女の子の無邪気さは、ヒカルの胸に去来した黒いもやもやを払拭させるがため、といったふうでもあった。

「あ……」

 きっ、とヒカルは唇を引き結ぶ。

 自分がもっと強かったら、この女の子も辛い目には遭わなかっただろう。もっと強かったら……、ヒカルは苦悶する。

 だからか、女の子の口から飛び出した一言に、ヒカルは面食らうこととなった。
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