プラチナ編
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しゃくっ、しゃくっ。
「まったく! 昔っからヒカルは世話が焼けるよな!」
しゃくっ、しゃくっ。
「仕方ないだろ、今回は……」
「今回も前回も次回もへったくれもねぇ!」
しゃくっ、しゃくっ。
怒り心頭のジュンは、ロメの実を大きく真っ二つに切った。片方を保存するために、ラップをかけ、もう片方の種とワタを取り去る。
あの女の子は旅支度をするんだ、とスキップして帰って行った。
女の子というものは、いつだって同年代の男の子よりも大人びている。きっとヒカルとジュンは二人っきりにした方が良いと、素早く的確に、審判のような判断を下したのだろう。
「――ってか、ロメって高価じゃなかったっけ?」
「お前の知り合いって言ってたモミって女の人から貰った。伝言『無理しないで下さいよ。ポケモン達も心配しちゃいますから』ってさ」
モミも病院へと搬送されたポケモントレーナーがヒカルであることを悟ったのだろう。とても聡い人なのだと改めて感じる。
「ああ、ありがとう。でもジュン、お前引き返して――」
言葉は、口に突っ込まれたロメの実の乗ったスプーンによって、表に出ることはなかった。
「……甘い」
咀嚼する暇もなく、ロメは口の中で豊潤な甘みと旨味を振り撒いて、男たちを誘惑する悪女のように消えていった。普通ロメの実と言ったら甘くなく、辛さと渋さと苦みがあるものだ。
「当ったり前だろ。あの人、わざわざ完熟した奴をくれたんだぞ。完熟した旨いロメが、デパートでは幾らで取り引きされてると思ってんだよ。俺とヒカルのトレーナーカードの中にある金が、合わせていっぺんに吹っ飛ぶほどだぞ」
「まったく……」とジュンは嘆息しながら、もう一つ用意してあったプラスチックのスプーンでロメの実を直接掬って食べる。
「お前、なにと戦ったんだよ」
確信を突く一言。
返答できずにヒカルは俯いた。
「ポッチャマも、俺のやったミツハニーも、よっぽどの手練と戦ったから深手を負ったんじゃないかって……ジョーイさんが深刻そうに言ってた」
「…………」
「おい、黙んなよ。なんか寂しいじゃねぇか」
苦笑の混じったトーンの声。
「……ラズワルドとキノは、無事なのか?」
「ああ、一応な」
それは前述の発言を絡めると、重症であったということだ。
自分の所為で。
自分が不甲斐なく、そして弱かったから。
強くならなくては。