ファイアレッド・リーフグリーン編


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 トキワシティ――セキエイポケモンリーグの傘下にある町だったり、森林がすぐそばにあるということで、なにかとトレーナーが集まりやすい町である。常盤は緑、永遠の色。緑が豊富なことで有名な町で、空気の美味しいところだ。



 らっきぃ……! と虫取り少年は人生初に近いチャンスを噛み締めていた。


 トキワシティ出身であり、この界隈ではそれなりに名の知れたトレーナーである虫取り少年もよく利用するポケモンセンター。その入り口前……と言っても、利用者の方々に迷惑がかからないようにと、避けるように横に立っている彼女。

 つまるところ言えば、美少女である。

 一本一本梳いた絹糸のようで、腰に届くほど長いブラウンの髪に、壊れ物の如く丁重に包まれたその面立ち。瑠璃を嵌め込んだ瞳は魔性の宝石だ。すらりと通った鼻筋も見とれるほどに美しく、引き結ばれた桜色の唇は今にも万人を恋い焦がれさせる魔法の言の葉を唱えそうだ。


 ごくり、虫取り少年は生唾を飲み込む。
 一世一代の大チャンス。その言葉を、靴下に沁み込む水のようにじわじわと感じていた。


 ポケモンセンターの前にいる……それはトレーナーであることと同意義である。現に名も知らぬ彼女の足元には、たねポケモンのフシギダネがいる。話しかけて上手く進められれば、ポケモンバトルにこじつけることも可能だ。そこから出会いが生まれるというのも、少なくない話だとかそうでないとか。

 だが女の子のポケモントレーナーは戦いを避けたがるのも、ままある話だ。直球勝負で話しかけても、すっぱり断られてしまうかもしれない。女の子とは、えてして男よりも思考が大人びているものなのだ。あっという間に虫取り少年の魂胆を見抜かれ、つっぱねられてしまう恐れもないとは言い切れない。
 けれどもあてぐね策を立てられるほど、虫取り少年くんは策士脳をしていなかった。ならば当たって砕けろとなるのは当然の流れであったといえよう。
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