ファイアレッド・リーフグリーン編
□2
1ページ/4ページ
時は少々遡る。
マサラタウン――カントー地方の中でも、ビルディングスの建設ラッシュから免れた、いわゆる田舎町だ。顔を突き合わせれば自然と挨拶が口を突き、子供達の名前は完全に把握できそうな、小さな町だ。
トキワシティの虫取り少年をけちょんけちょんに倒した、あのトモエの出身地であり、彼女のパートナーポケモンであるフシギダネことだねさんも、この町の出身であるのだ。
マサラの色は白。
まっさらとしたなにものにも染まらない白色。
それはある意味、トモエのさっぱりとした意志の色のようでもあった。
「――――おーい、じーさん! オーキドのじいさん!」
「なんじゃ騒がしい」
ここはオーキドポケモン研究所。ポケモン研究全体の第一人者としてその名が広く知られているオーキド博士の研究所だ。
旅をするにあたって、トレーナー達はポケモンを一匹連れて行かなければならない。
人と共存するポケモンと言えど、野生では人に襲いかかる。なので親類から貰うか、こうやって研究者から貰ったりするのが一般的なのだ。トモエの家族にポケモン関係で仕事をしている人間はおらず、なのでこうしてオーキド博士からポケモンを貰いに来たわけなのだが、どの角度から見ても、トモエの言動は人からなにかを貰う際の言葉遣いではない。
その常識知らずな素振りにはオーキド博士も参っているらしく、「やれやれ」と頭を痛めている。
研究所内には、二人の少年が先客がいた。
片方はつんけんした髪(と性格)の見るからに勝気そうな少年と、赤いキャップを目深にかぶった寡黙そうな少年だった。
つんけんした少年の方がトモエを指差し、半ば叫ぶように声を上げた。
「遅いぞトモエ! 俺はもう全部のポケモンを貰い受けた! へっ! ライバルが一人いなくなって清々するぜ!」
「ふふふ……、残念だったなシゲル坊ちゃん! 博士にはすでに賄賂を回していたのさ! お前に渡すのだけ空のモンスターボールにすり替えておいて下されと依頼しておいたのさ! あんたが孫だろうが金の魔力の前には人類皆平等なのさっ!」
「…………二人とも、そんなフィクション(実際の人物・団体・事件などには一切関係ありません)で言い争いしてないで、ちゃんと挨拶しなよ。ポケモン貰えなくなったらどうするんだ」
寡黙そうな少年は、やたらと説明口調でテリトリー争いをするポッポのような二人を制する。
「けどにーちゃん!」
因みに、トモエが「シゲル」と呼んだ方の少年は、オーキド博士の実の孫兼昔からのライバルであり、「にーちゃん」と呼んだ方は本来「サトシ」と言い、彼女より一歳年上の従兄弟だ。
「――うぉっほん!」
オーキド博士の特大咳払いが、さして広くない研究所内に反響して、小競り合いを一発で鎮めた。
「なんじゃお前ら、旅に出たいんじゃなかったのか? ポケモンが欲しかったんじゃなかったのか?」
「当たり前だろ!」とシゲルとトモエの似たものコンビの声が綺麗に重なり合う。
「じゃったら、静かにしておれ」
「はぁーい……」とまたもやハーモニーが奏でられる。
「そこの机に置いてあるモンスターボールに、初心者用のポケモンが入っておる」
モンスターボールとは、ポケモンをデータ化させて収めることができるボールを差す。中にはキャプチャーネットと呼ばれるポケモンをデータ化させる網が入っており、ぼんぐりという特別な木の実を繰り抜いたカプセルにポケモン一匹分のデータを保存することはできるボール型の機械だ。
「――ほれ!」
オーキド博士が三つのモンスターボールを中に放り投げた。
ぽん、ぽん、ぽん、と飛び出す三つの影。
「うお!」
「きゃああっ!」
「…………おっ」
三者三様の声が研究所内を彩る中、緑、青、赤のポケモン。
「フシギダネ、ゼニガメ、ヒトカゲ――わしが昔、一人のポケモントレーナーとして旅に連れていた奴等の子供達じゃ。扱いやすさはお墨付きじゃよ」
「おおおー!」と二名が感嘆を露わにする。
たねポケモン・フシギダネ。
かめのこポケモン・ゼニガメ。
とかげポケモン・ヒトカゲ。
「かっ……かっ……」
トモエが、わなわなとふるえながら不思議な声を発していた。