ファイアレッド・リーフグリーン編


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 ――「ああ、トモエ。お前のことだからまずトキワシティのポケモンジムに挑もうとしているのは重々分かってるけれど……あそこのジム、今は休業中らしい。トキワの森を抜けて、ニビシティに行くことを勧めるよ」


 トモエは自身より一歳年上の従兄弟――サトシは現在進行形でトモエ家に居候しているので、もう兄妹と言っても過言ではない。
 家族ぐるみで接してきた分、トモエはサトシが真顔で嘘を吐く種類の人間だということを知っていた。

 なので今回も同じような嘘かと思って確認してみたのだが、トキワジムにはサトシの言った通り、休業中の張り紙がされていた。
 ……おそらく嘘を吐くことを信じていたトモエの心を騙したのだ。

 詐欺師はなんでも騙す、そう言ったところか。


 表情筋がないんじゃないのかと疑わずにはいられない鉄面皮の仮面も、サトシが詐欺師のようになるためにもたらされたようなものだ。
 多分飲酒したとしても、シゲルが酔い潰れようがトモエが酔い潰れようが、最後の最後まで素面でいることだろう。あれの前では多くの人間をも惑わせてきたアルコールの魔力も、まるで真水のようになんら意味をなさないだろう。

 全く、我ながら忌々しい親類を持ったものだ、とトモエは自身を毒づく。


 ここで補足が入るが、一歳年上のサトシは通常旅には出ないはずなのだ。夏休みに入れば個人的に旅立つことはあれど、三か月ものカントー一周期間を得ているのは、トモエやシゲルのような13歳の時点で旅立つのだが、これはサトシの家庭事情に足を踏み入れなければならない。

 サトシの父親はシングルファーザーなのだ。カントーのトレーナーアイテム製造を務めるシルフカンパニーのシンオウ支部にて、割と重要な役職についていたのだが、去年の夏に昇進で本社のあるカントーへと呼び戻された。
 息子であるサトシも当然一緒に、トモエやシゲルのいるカントーへと引っ越してきたのだが、シルフカンパニーでの仕事が忙しくなってしてしまい、サトシまで手が回らなくなってきてしまったので、トモエの家に預けられたということだ。しかもそのタイミングが旅に出る直前だったので、来年度の現在へと繰り越されたということだ。

 もしかするとサトシの年齢離れした冷静さは、こういった家庭環境で培われたものなのかもしれない。



 トモエは鬱蒼と生い茂る広葉樹の群れと、葉の中で蠢くキャタピーを観察しながら呟いた。

「とにかく、このトキワの森を越えなきゃなー」
「だねー」

 足元にいるフシギダネのだねさんがまったりと鳴く。

「…………かっ」

 トモエのタガが弾け飛んだ。

「可愛いいいいっ! ああもう可愛い可愛い可愛い! この可愛らしさは天使! ガブリエルだよガブリエル! ガブリエルさんが本当に可愛らしいのか知らんけど! でも天使が可愛らしさの権化であることには変わりないっ! 可愛さでアタシ天に召されそうだよおおおっ!」

 何度も何度も繰り返される頬ずりに、流石にだねさんも慣れ始めていた。本人も不本意ながら、ポケモンの適応能力はこんなところでも発揮されるようだ。

 トモエは元気よく拳を振り上げる。

「よし。気合も十分、愛情も十分、道具も十分! これでトキワの森も必勝!」
「だねー!」
「ああああなんでそんなに可愛らしいのおおおおなんでそんなにアタシを誘惑するのおおおおお! 犯罪。だねさん、あなたの可愛さは罪深い! よってアタシとずっと旅を共にする刑に処す! あああああもう鼻から赤き鉄分が出そうっ」


 以下無限ループで振り出しに戻る。
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