ファイアレッド・リーフグリーン編
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走って行ってしまったトモエを追いかけるだねさん達と、少し離れた場所――――
「なんだ……あれ?」
見ていたものは、追いかけていたピンク色の影ではなかった。
だが、それはピンクの影だった。
正確には、ピッピではなかったのだ。
しかしこのお月見山にはピッピ以外にそんな色鮮やかなポケモンは存在しない。心ないトレーナーが野に放ったものでもない限りだ。その予想さえも打ち消すような光景が、そこにはあった。
ピンク色の体は、例えるならば妖精。特徴を言葉で表すとピッピとなんら変わらないのだが、独特の長く細い尻尾と青い瞳に目が釘付けにされてしまっていた。
釘付け、という表現も正しくない。もしも視線が糸だったならば、残らずピンク色のポケモンに巻きついて巻きついて、固く結ばれてしまっていたことだろう。もう視線が一生離せなくなるかと思うほどに。
可愛らしいと言えば、とても可愛らしいポケモンだ。
だがトモエは、いつものように飛び付けなかった――否、飛び付けるわけがなかった。
その、神聖としか例えようのない神々しさと恐ろしさ。全身の細胞という細胞の核から、どろりと恐れが滲む。恐怖と言うより、それは畏怖。搾り出した声でさえ奇跡に等しい。
普通ではない。
悟れた事実はたったそれだけ。
けれどももう十分だった。
追いかけっこは終わり? そう言わんばかりに尻尾をしならせると、ピンク色のポケモンは飛び去ろうとする。
「まっ!」
待て、そう言おうとしたトモエの声はイレギュラーな第三者の声によって阻まれる。