ファイアレッド・リーフグリーン編
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「なあ、思うんだけどよ……。あのガラガラ、普通に人の言葉喋ってたけど、どうしてなんだ?」
「幽霊には、人にもポケモンにも通じるような共通言語があるんだろ」
「生きている人間は分からないさ」と、ひっきりなしなシゲルの質問攻めに顔をしかめつつ、サトシは面倒臭そうに答えた。
「あと、なんであそこにフジ老人もいたんだ?」
「きっとガラガラの墓参りにいったんだろう。そうしたら、ガラガラの幽霊に捕らわれた。――死んで我を忘れても、優しくしてくれたフジ老人のことを覚えていて、攻撃せずにあんな形として、ことに及んだってところだろうよ」
一夜越して南の空に太陽が高く昇った時刻。
サトシとシゲルがいるのは、ポケモンセンターのロビーだ。
幸いフジ老人に目立った怪我はなく、念のため病院で擦り剥いた腕にガーゼを当てたり検査が終わったりすると、本人たっての希望により、すぐさまボランティアハウスに帰宅した。
ここにはいないトモエはフジ老人を送ると共に、ガラガラの頭骨を届けに行ったのだ。
「それよりも、気になることがある」
サトシは僅かに目を細めて呟く。
「気になること?」
「あのガラガラを殺したのは、十中八九ロケット団で間違いない……けれど、幾つか不可解な点があるんだ」
組んだ指に顎を乗せて、話し始めた。
「ガラガラが殺されたのは、なんでだと思う?」
「そりゃあ、ガラガラの骨目当てだろ」
ガラガラの頭骨と持っている武器の骨は、加工品や装飾品として高値で取引される。
……現在こそ、条約で禁止されているのだが、ポケモンマフィアのロケット団がそれを狙ってガラガラを殺すのは、実に分かりやすい。
「けれど、よく考えろ。ガラガラの骨は残されたままだった」
「あ、……そっか」
骨を狙ったのではないとしたら、とても厄介なことになる。ガラガラを狙う理由が、それ例外にないからだ。
じゃあなんで? とシゲルが聞く。
「消去法で考えられるのは――ガラガラを狙って殺した、とか」
「なっ!?」
「でもそれは本当なのか分からない」
第一、骨目当て以外でガラガラを襲撃する理由がないのだから。
殺したところで有益にも無益にもならない。
「おかしい」
微かな不満を含ませて吐き捨てる。
「相手はマフィアだ。なのに、合理的じゃない」
「裏に……なにかあるってことか?」
黒い一団による、お月見山でのトレーナー襲撃事件。
商業都市・ヤマブキシティの封鎖。
それはサトシもシゲルも、勿論トモエも認知していた。
カントーの裏で、なにかが蠢いている。
背中がむず痒いような、そんな感覚がシゲルを蝕んだ。
「現在封鎖されているヤマブキシティの四方を囲んでいる町が、ハナダ・タマムシ・シオン・セキチクだ。この中でポケモンジムがない町は……ここ、シオンだけ」
偶然ではなく、必然の可能性が出てくる。
「あと、ガラガラを殺したのは、エスパータイプのポケモンだって言ったよな」
「ああ」
確かに、とシゲルは頷く。
「それもなんだか引っかかる」
サトシが指摘する。
「エスパータイプのポケモンも、かなりトリッキーな動きで撹乱することができるけれど、ロケット団は毒ポケモンを中心に使っているみたいなんだ」
えんまくやスモッグとかで逃げやすいからだろう、とサトシは言う。
「なのに、今回の件でやたらと浮いた存在のエスパータイプポケモン。ガラガラの地面タイプに有効な水タイプとかじゃあない」
こうやって考えると、おかしいこと尽くめだ。
「……嫌な、感じだ」
サトシは小さく呟いた。