エメラルド編


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「……参ったなぁ」

 初めてのパートナーとなったアチャモとジグザグマを足元に、ハルカはポケモンセンターで途方に暮れていた。


 ポケモンセンターとは、バトルや野生のポケモンとの交戦で自分のポケモンが傷ついた際の回復所。つまることろ、ポケモンの病院と言うところだ。旅途中のトレーナー達の公的宿泊施設も兼ねていたり、割安な食堂もある。

 今ハルカは数多くのトレーナーでごった返すロビーにて溜め息を吐いているのだった。
 壁に張られたタウンマップを見るたびに、先が思いやられている様子だ。

 あのオダマキ博士が言っていたコトキタウンではない。その先のトウカシティだ。

 アチャモを貰い受け、ジグザグマを捕まえた次の日の午前中には、コトキタウンであらかたの道具は揃え、何人かのトレーナーとの勝負もくぐり抜け、とある用事のあるトウカシティに辿り着いたのだが……。

「お父さんは、留守なのかぁ……」

 ハルカは回想する。



 ――それは、まだついさっきと言うべきだろう。
 トウカシティに到着して、アチャモとジグザグマを回復してもらっている間に、ハルカはトウカジムを訪ねたのだ。

 彼女の父親・センリがジムリーダーとしているのは、このトウカシティポケモンジムなのである。

「すみません、あの父さ……センリさんはいらっしゃいますか?」

 ジムの用心棒とも言うべきジムトレーナーに聞いてみた。

「ん? お前、挑戦者か?」

 ハルカよりも頭一つ分大きいエリートそうな青年は顔をしげしげと覗き込んでくる。

「い、いえ、そうではなくて……」
「じゃあなんだっていうんだよ」

 ハルカは懐から、トレーナーの身分証明書であるトレーナーカードを取り出した。


 トレーナーカードには、個人情報のみならず、電子マネーとしての機能も備わっていたりと、トレーナーとしては欠かせないだけでなく、登録することでポケモン協会の管理下に自動的に置かれることとなる。なのでポケモンを悪用すれば、すぐさま協会に発覚するというシステムでもあり、ポケモンと関わる人達にとってはトレーナーライセンスのような役割を持っているのだ。
 勿論、血縁関係に関するデータも当たり前にある。

 ハルカはポケモン図鑑のカードリーダーに通して、家族構成を彼に見せた。

 あっという間に顔面蒼白となるジムトレーナー。

「しっ、失礼致しましたーっ! 我がトウカジムがおさ、センリさんの御子息の方であるとは……、御無礼をお許し下さい!」

 冷や汗だらだらの形相で深々と頭を下げた様子から、どこでもピラミッドの頂上にいる人には逆らえないということか……とハルカはしみじみと思う。

「し、しかしながら……」

 申し訳なさそうに、ジムトレーナーは恐る恐る言った。

「センリさんは現在、月に一度のジムリーダー会議に出席していて、いないんですよ……」



 ――とのこと。

 センリの帰りをだらだら待っていても仕方がないので、ポケモンセンターのタウンマップで次の行き先を確認しているところなのだが、次の町はカナズミシティかムロタウン。前者は深い森を抜けられなければならず、後者は海路を使用しなければならない。
 泳げるポケモンがいないので必然的に前者となるのだが、迷いの樹海と恐れられる森を新米トレーナーの己が超えられるか……と少々不安に駆られていた。

「まー悩んでいても進めないかぁ……」

 踏ん切りがついたのか、ハルカは重い腰を上げる。

「いくかい、二人とも」
「ちゃもー!」

 元気良く鳴くアチャモに対して、ジグザグマは静かに「きゅー」とだけ鳴いた。
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