エメラルド編
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カナズミシティ。
元々はトウカの森のように鬱蒼と生い茂る木々ばかりで手つかずの土地だったが、荒れ放題だった土地を切り開き――なんでも、その切り開いた立役者が「いあいぎりオヤジ」という謎の愛称で呼ばれる人物であり、更には森も残すことで自然との共存を図っている商業都市だ。
今時の言葉で言うとエコシティ。実際にハルカがそんな言葉を聞いたりしたかと質問されると、速攻で「ない」と否定するが、エコなシティである事実は揺るぎなくある。
大企業・デボンコーポレーションの本社ビルも居を構え、ポケモントレーナー育成に特化した珍しい学校・トレーナーズスクールやポケモンジムもある、ホウエン地方では比較的都会で、立派なビル群を持つ町であるのだ。
その町を守護するジムリーダーの名はツツジ。
彼女を語るうえで、この町のトレーナーズスクールを交えずには話にならない。
カナズミトレーナーズスクール、開校一番の才女と声高々に言われている。
当たり前のように主席で卒業し、当たり前のように早くからジムに就任しという、あるがままの秀才。きっと天才と呼ばれていないところからして、努力を石のように積み重ねて高みへと辿り着いたのだろう。
意志で辿り着いて――
そして石で遥かなる高みへと手を伸ばしている。
文字通り、エキスパートは屈強なる岩タイプ。付いた二つ名が「岩にときめく優等生」だ。
アチャモにしろジグザグマにしろ、相性が悪いことこのうえない。
アチャモは一撃でも攻撃を受ければ倒れてしまうだろうし、ジグザグマでは素早さで翻弄できるのは絶対なのだが決定打に至りはしない。
「――そんなのを相手に出来るのかなぁ……」
ハルカはいつも通りのマイナス思考で、溜め息混じりに小さく呟く。
アチャモもジグザグマも、トウカの森を超える頃には十分なぐらいに育った。
余談であるが、あの少年――ミツルがケムッソとラルトスと共に抜けられるかを多少見送ったので、今はとっぷり日の沈んだ夜である。最初のジムに挑むのも十分なほどに、保険が付いているほどに育っているのだ。それはトレーナーであるハルカ自身は一番良く理解している。
だがそれだけで安心できるのならば、旅で苦労はしない。
ジムを回らずに……というのもアリなのだろうが、腕試しをしてみたい心がないわけでもないのだ。ある意味、ハルカもトレーナーらしくなってきたということだろう。
そう、ハルカはポケモン用のフーズをもふぁもふぁ食べる二匹を見て思う。
一つだけ残っていたフライドポテトをフォークで突き刺し、頬ばった。
大分油が馴染んでいた割にはそれなりに美味しかったが、萎びていたため、かりっとしたフライドポテトの方が好きなハルカは僅かに眉間に皺を寄せた。
「明日、かな。ジムへの挑戦は」
アチャモの羽毛をくすぐってみる。
むずかゆそうに体をしならせたが、嬉しそうに長く鳴いた。ダーテングの葉っぱんの形をしたトサカは、幸せそうなダンスを踊るように揺らめく。
橙色の羽毛はふさふさとしていて、尚且つふわふわとハルカの細い指に心地良い感触を残した。
「デボンは後回しでもいいよね……」
ポケモンセンターの食堂の窓から見る街灯は、夜闇にぽうと明るく、まるでバルビートとイルミーゼのダンスのようだった。