エメラルド編


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 見事……と言えるのかどうかは別として、なんとかストーンバッジを手に入れたハルカ。

「ああ、二人共、お願いだから大人しくボールの中に入っていて」

 開閉スイッチから照射されるレーザーでモンスターボールへと吸い込まれたアチャモとジグザグマであったが、興奮を露わにするの理由をハルカは重々理解していた。


 初のジム戦勝利の喜びも束の間、今現在ハルカはホウエン地方で最大の企業・デボンコーポレーションの本社ビル前にいるのだ。

 勿論目的といえばあの商社マンの人から良い物を貰うに他ならないが、こうして本社ビルを見上げていると帰りたくなってしまう不思議に、ハルカは困ってしまう。

 流石ホウエンを代表する大の上に大がつく大企業。
 建物の高さはさることながら、煉瓦造りの外壁も感嘆に値するほどに立派だった。どこかの由緒正しき歴史ある博物館かなにかを連想させる外装と内装は、一目でデボンコーポレーションの影響力を窺い知ることができるだろう。

 ひとたび中に入ると、またもや緊張させられる。

 かっちりとしたスーツ姿の社員の方々が忙しなく――けれど品のある歩みでハルカの前やら横やら通り過ぎていく。「これぞ社員の模範」と言うべき人達ばかりで、トレーナー然とした風貌のハルカにはこのうえなく似つかわしくない。場違いである。

 それでも受け取る権利のある幸せならば、多少の恥は凌ぐ覚悟のハルカであった。
 いくらダウナーでネガティヴで次善優先のハルカでも、幸せを享受する権利さえも投げうつほどではない。

 緊張で表情筋が強張るのを感じながらも、受付の女性に話しかけた。

「あ、あの……」
「はい、なんでしょうか?」

 男性ならば図らずとも揺らいでしまいそうな営業スマイルを向けられ、意図的に視線を逸らすハルカ。怪しく思われそうなのは言うまでもない。

「この名刺を頂いて、『カナズミシティに立ち寄ることがあれば来てほしい』と言われたんですが……」

 指先まで美しい受け取り方をした受け付け嬢の人は、すぐさまICチップを機械に読み取らせ、確認を取っているようだった。
 内心ハルカは「偽物じゃなけりゃいいんだけどなぁ……」と未だに心配していた。

「はい分かりました。これは紛れもなく我が社の者の名刺です。前もって言われていた特徴ともお嬢さんが一致するようなので、少々お待ち下さい」
「は、はあ……」

 受け付け嬢の人は間髪を入れずに内線で誰かに連絡を取っているようだった。その電話も終わると、良き笑顔を再び向けてくれた。ここまで笑顔が様になり過ぎている人も考えものだろう。これでは社員になりすまして侵入したとしても、罪悪感に押し潰されて自白してしまいそうだ。

 もしや、この受け付け嬢はデボンコーポレーションで選び抜かれたエージェントじゃなかろうかっ? と思ってしまうハルカである。
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