エメラルド編


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 フエンタウンは温泉の町。

 そんなことは、ホウエン地方の人間のみならずとも知られている情報であった。



「はぁ……」

 煙突山にて、マグマ団とアクア団の抗争に駆り出されたハルカは、やっと温泉で落ち着けることに安堵しているのだ。

「生き返る……」

 かぽーんと、お馴染みの音色がした。

 フエンタウンの温泉は、足湯や旅館に付属されるものなどが大多数を占めているが、全身でその湯の素晴らしさを低価格で体感できるのは、ポケモンセンターにある露天風呂なのだ。

 環境維持費にちょっとの金額を取られるくらいで、ゆっくりと極上の湯を堪能できる。
 旅を続けて疲れているトレーナー達にとってみれば、これほどまでに喜ばしいこともないだろう。

 白濁した硫黄泉は、皮膚病・婦人病・切り傷・動脈硬化・高血圧・高血糖などに作用する。
 ハルカには特に切り傷などはないが、疲れが全身から染み出ていくような心地良さを全身で感じていた。


 現在、手持ちのワカシャモ・マッスグマ・コダック・ゴクリン・ナックラー達は、ポケモン専用の方で満喫していることだろう。
 流石にワカシャモとナックラーは全身湯につけることはできないが、ワカシャモは足湯を、ナックラーはぴりりと辛い名物のフエン煎餅を腹いっぱい味わっているはずだ。


「極楽、極楽ぅ……」
「あ! いましたアスナさん! あいつですっ!」

 まったりした空気の温泉には似つかわしくない声が轟いた。

「コータス、オーバーヒート!」

 貫くような火柱が、ハルカを燃やし尽くさんとやってきた。

「うわっ!」

 湯に潜り、難を逃れるハルカ。
 ちりりと髪の毛が少し焦げたような、嫌な匂いがした。

 相手の顔を確認する暇もなく顔を上げて、濡れそぼって重くなったタオルを体に巻き付け駆け出すと、必死に叫び声を上げる。

「ワカシャモ! マッスグマ! コダック! ゴクリン! ナックラー! なんか知らないけど、やばいかもしれないっ!」

 逃げ出そうとするハルカを、みすみす逃がしはしない。

「ああっ! アスナさん逃げます! そこです!」

 狼煙のように上がった声で、ハルカに向けてのオーバーヒートが再度放たれる。

「わわっ!」

 転びそうになりながらも、オーバーヒートを紙一重でかわす。
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