B短文

□20.御主人様のお気の召すまま
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え?もう帰って言いいの?帰りたいんですけど……なんか、帰れない空気なんですけど……誰でもいいから助けてください!!とクラスの大半が心の中心で叫んでいると、

「Hey、聞いたぜ(半兵衛に)元親、テメーメイドになるんだってな」

そう言って、半兵衛と同じようにいきなり入ってきたのは同じく隣のクラスの伊達政宗である。

半兵衛に聞いたといっても、二人が仲良しなわけじゃなく、ただ単に『なんだって!?男子メイド喫茶だって!秀吉の操が危ない』と半兵衛が叫んだからである。

「政宗殿!」

「うるせーなぁ好きでやるんじゃねぇよ!」

「ぜってー笑いに行ってやっからよ」

噴出しそうになるのを我慢しているようで少し震えながら、元親の肩を叩く。

「政宗殿!」

「OH、真田幸村……となるとアンタもやるんだよな、メイド」

「だ、男子が斯様なヒラヒラとした服に身を包むなど……」

(よく言うよ、率先して同意したくせに)

佐助は呆れたように幸村を見る……だが、怖いので声には出さず心の中で突っ込む。

「アンタならcuteな顔してるし、似合うんじゃねぇか」

「そ、その様なこと……からかわないで下され!」

幸村は政宗から顔を反らして俯く、その顔はほんのりと赤い。

(アンタの演技は本当オスカーモノだよ)

演技で頬まで染めるなんて普通出来ねぇよ。佐助及びクラスの大半がそう心の中で思う。

幸村と同じクラスに成ったことがある人で彼の本性に気付かないのは政宗くらいだろう(昨年同クラスだった)。幸村が政宗の前では完璧に演じているというのもあるが、政宗が鈍いというか……よく言えば純真、悪く言えばバカだからだろう。

「……そう言う貴様らのクラスは一体なにをやるのだ?」

孫市が政宗へと問いかける、

「Ahー?アンタ等に教える義理はあるのか?」

「あるな、貴様らは我らの情報を得た、ならば我らにも情報を与えるというのは道理だろう」

「Ha、誰が敵に有利になるような情…「うむ、孫市の言うことも一理あるな」

断ろうとした政宗に割って入って来たのは徳川家康である。余談だが、家康は隣のクラスの委員長、政宗は副委員長である。

「オイ、家康」

その家康の台詞を咎めるようにして睨みつける、

「やるなら正々堂々だ独眼竜。同じ条件下のもとの相手を下した方が喜びは大きいだろう」

ニコッと政宗に向けて笑った後、キリッとした顔で孫市に向き直る。

そりゃそうだが、負けたらもとも子もねぇだろ……ブツブツとまだ少し納得がいかない様な様子を見せる。

「ちょっと待ってくれ家康君!さっき決まった案は同じクラスの者として異議を申し立てる!!」

さっきまで秀吉と(というよりは半兵衛一人でだが)二人の世界を作っていた半兵衛が、意義あり!といってくる。

「秀吉以外どうでもいいからさっきはクラスの出し物なんて何でもいいと適当に了承したけど……」

「オイ、なんかぶっちゃけたぞコイツ」

「やはり、秀吉が危機の今、そんな下らない企画はやめて!クラス一丸となって秀吉の貞操を守る秀吉騎士[ナイト]クラブをやるのはどうだい」

「なんだそりゃ!!?」

「当日、メイド服姿の秀吉をよこしまな目で見たり、よからぬ事を企む輩から秀吉を守るんだよ、クラス一丸となって!」

「そうじゃなくて!つかなんでclass一丸となってソイツを守らなきゃなんねぇんだよ!」

「……ソイツ?今秀「半兵衛、それも良い案かも知れんが、それだと秀吉公の艶姿をずっとクラスの者達に拝ませることになるぞ」

「ハッ!?そう言われてみるとそうだ……僕のクラスの者達が秀吉の艶姿に当てられて、何時秀吉を狙う獣に変身するかわからないかもしれない!」

「誰がんなことするかよ」

「だからな、半兵衛……お主に特別任務を与えよう」

家康は半兵衛の肩に手を置いてニコッと笑う。

「当日、お主一人が秀吉公の騎士になって秀吉公にずっと付いて守れ。大丈夫だお主一人でも、秀吉公とお主との絆をワシは信じているからな」

「家康君!君って人は……本当に良い案だよ!!ゴメンよ君を、同じクラス委員になって秀吉に擦り寄ろうとしていた輩だと思っていたよ」

「そんな風に思われていたのか、ショックだな。だが、誤解が解けて何よりだ」

「Ha、やるじゃねぇか家康。これで邪魔者を排除した上、このclassに押し付けられて一石二鳥だな」

「絆の力だ」

ニコッと笑うと、嫌そうな顔をしている孫市にもう一度向き直ると、

「とう言うわけで、ワシらのクラスはハロウィンパーティをやるつもりだ」

「成程、日も近いからな」

文化祭は十月末の予定である。

「ああ、そこで独眼竜の手作り菓子も配る予定だ、あと鶴姫の占いの館もな皆是非来てくれ」

「政宗殿の手作り!?まさか魔女っ娘姿でお配りを…!?」

「えーマジ、じゃ俺絶対行くわ!」

「フン、早速宣伝か、なかなかあくどい事をするなカラスめ」

「なにを言ってるんだ、勝負は既に始まっているからな」

「勝負とは何でござろうか?」

「Ahー、そんなことも知らないのか真田」

「一位になったクラスは一ヶ月の食堂のフリーパス券が貰えるんだ」

「なっ、まことでござるか!!」

「まっ、あの学長(信長)の考えそうなこったよな、争いの火種を含ませてやがる」

「おお、燃えてきましたぞーーー!!!必ずや一位になってみせますぞお館様ァァァ!!!」

「Ha、そんなことさせるかってんだ俺等のclassがvictoryだぜ」

「いえ、某が勝ちます!」

「おもしれぇ、やってみろよ。真田幸村ァ!俺が勝つかテメーが負けるかだな」

「いや、これクラス対抗だからね、それにどっちも旦那負けてるから」

「意気込むのもいいが、アンタ自分がメイド服着るってわかってるか?」

「そ、そうでござった……だが、勝負とあればっ……この幸村!」

頬を染めながらも意気込んでみせる。

「いい目してるじゃねぇか真田幸村」

(いや、偽りの目なんですけどね)

「まっ勝つのは俺だけどな、万が一俺に勝つことが出来たら一つだけ何でも言うこと聞いてやってもいいぜ」

「ちょ!伊達ちゃ…「佐助」

とんでもない台詞を言ってきた政宗に驚いた佐助は慌てて助けようと…撤回させようとするが……幸村がそれを制する。

佐助を見る幸村の顔は穏やかだが、発している空気が全く穏やかじゃない。確実に自分一人だけがピンポイントでビシビシと感じる重い空気に嫌な汗が背中を流れる。

(ゴメン伊達ちゃん)

所詮人間自分が一番可愛いのだ。佐助は心の中で涙を流し政宗に謝った。

「ほ、本当でござるか政宗殿!」

さっきとは打って変わって、幸村は犬が御主人様に褒めてもらって嬉しそうな感じを醸し出しながら政宗を見ている、

「Yes、男に二言はねぇ。ただし、アンタが勝てたらだがな」

「無論、勝ってみせるでござる!」

「ただし、俺が勝ったら俺の言うこと一つ聞いてもらおうか」

ニヤッと政宗が笑う。

幸村と政宗の関係は竜虎のライバルである……と思っているのは政宗だけであろう。

他の者には、犬の毛皮を被った狼に気付かずにいるウサギと思われている。

それに気付かずに、狼が口を開けて待っている小屋を自らノックするなんて……


『Stop!幸村!wait!待て待て!!』

『政宗殿、何でも言うこと聞いてくれると言ったではござらぬか』

『いや…Ahー…それはだな……』

『政宗殿!男に二言は無いといったではござらぬか……あの時の言葉はウソでござったか』

泣きそうな目で政宗を見れば、政宗も強くは出れないであろう……そしてそのまま……


(今度こそさよならバージン伊達ちゃん)

まだ見ぬ未来に……だが、確実に見える未来に、皆心の中で涙を流した。




2011.11.
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