B短文

□4.12月24日の赤い男
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※クリスマスネタ
※大人×子供




クリスマスは小さい頃は一年のうちで一番好きなイベントだった……
だけど今は…
弟が産まれてから…いやこの片目を失ってからは、一年のうちで一番きて欲しくないイベントとなった。

今年も聖なる夜を二階自分の部屋で一人っきりで勉強しながら過ごしている。
下の部屋では母と弟が小十郎や他の部下を交えて盛大にパーティをしている事だろう。小十郎が『政宗様もご一緒に』と誘ってくれたが、勉強をするからと断った。
本当は、俺が行くとあの人の顔が歪む…嫌なものを見たという目で俺を見るのが耐えられないからだった。小十郎が、ならば私が勉強をみてさしあげますと申し出てくれたが、それも断った。
街や下の階はクリスマス一色だが、この自分の部屋で唯一クリスマスっぽいのは小十郎がくれた手のひらサイズの小さなツリーだけだ。チラリと向けた視線の先にあるそれは小さいながらもボタンを押せば、ライトが付くちょっとした物だ。
あんな姿でこんな可愛らしい物を買うなんて恥ずかしかったんじゃないのか小十郎の奴?と彼がこれを買ったときの事を想像してクスリと笑みが漏れた。

自分は見た目からしてハンデを背負っているから、いい成績を取って学校の方から欲しいと言われるようにならなければならない…そう自分に言い聞かせ勉強に集中する。

静かな夜だ。

ガタ…音が聞こえたようなと思うまもなく……ガタガタガタ!聞き間違いじゃ無く窓が激しく揺れる音がし、
(何だ?)
ビクッと体が緊張すると同時にガギョン!!と鈍い音がし、ガラリと窓が開く……外の冷たい風が温かい部屋の温度を奪っていく……
いやそれ以上に……それらと共に入ってきたのは赤いジャケットを着た男……一瞬あまりの事に驚いて体も動かず声も出なかったが、すぐにハッと状況を判断し部屋に置いてある剣道で使う竹刀を取り出して構える、
「某怪しいものではござらん!!」
「十分怪しいだろぉが!!」
慌た様にそう言ってくる男の言葉を一蹴する。
人の家に夜に窓から侵入して来て怪しくない奴がどこに居る。
「そ…某はサンタクロースでござる」
「はぁ?」
出て行くどころか、窓を閉めた男の頭をガコッと取り合えず頭を一発竹刀で殴っておく。
「ホラ、赤いでござろう」
自称サンタが言う通り、確かに赤いジャケットを着ているが、湯煮黒のチラシで見たようなダウンジャケットだ(しかもそれよりも安物クサイ)。
「Santaclothってのは白い髭はやした爺さんじゃねぇのか?」
しかも、武士語のサンタなんて……
男をジロジロと上から下まで訝しげに見る。コートは確かに赤だし、その中は赤のトレーナーだが下は(これまた安っぽい)ジーパンだ…どっから見ても、サンタというよりそこら辺に居そうなお兄さんである(喋り方除く)。
「政宗殿とあろうものが、先入観を持って人を見るとは……」
「なっ、仕方ねぇだろ!」
世の中にはその先入観を植え付ける様なサンタクロースで溢れ返っている。
「…っつかなんで俺の名前」
「言ったでござろう、サンタクロースだと、だから何でも知っている。貴殿が……」
ふわりと政宗の頭を撫でるその男の手は、手袋をしていないのにさっきまで寒い外に居たとは思えないほど暖かく……
「政宗殿が、クリスマスをずっと一人で過ごしていることも……」
ふいに泣きそうになってしまった。

「うるせぇよ」とか「好きで過ごしてんだよ」と言ってやりたいが、上手く声にならない。
「今夜だけでも、このサンタクロースと共に過ごしてくださらぬか」
そんな事を不審者にいきなり言われても困るが、言葉に詰まってるとどうやら彼は答えない自分に勝手に了と解釈したらしい。
「佐助ェ!!」
部屋の主である政宗の方がギョッとするような声を上げて、不法侵入者は窓を開ける。すると、
「寒いんだけど…旦那」
ひょいと窓から派手な髪色と髪型の男が顔を出し、サンタに箱を渡す。最初に言ったと思うが政宗の部屋は二階である……
「だ…」
「トナカイでござる」
驚いた政宗が誰だと思う前に、男は答えを告げる。
「ちょ!?誰がトナカイ!!つか寒すぎて死にそうなんですけど!!旦那ばっかりずるい俺様も入れ……」
ピシャン!その佐助と呼ばれた男の言葉が言い終わらないうちにサンタは窓を閉める。
「だ…大丈夫か?」
政宗は思わず外に視線を向けてしまう。今日は今にも雪が降りそうなほど寒い夜である、心配するのは普通の人間の心理だろう…
「トナカイは外に居るものでござる」
が、サンタ自身は全く気にしてないようだ。
「それよりも…ハイ政宗殿」
そう言って、先程トナカイと呼ばれた男が持ってきた箱をずいっと渡してくる。
「なにこれ?」
「クリスマスといえばこれでござろう、プレゼントでござる」
無理矢理押し付けて嬉しそうに笑いながら言ってくる。
クリスマスや何かのお祝いのときによく見かけるそのシンプルな白い箱からして、なんとなく中身は想像できる。
箱から男の方に視線を向けると「早く早く開けてくだされ」と言わんばかりのオーラを発している。気のせいだろうかサンタの白髭とかじゃなく犬の尻尾の様な物が見える様な気がする。
「……」
(まぁ早く食わないと悪くなるからな…)
そう思って開ければ思った通りクリスマスデコレーションのケーキ……しかも1ホール更に大きさから言って20号くらいだろうか、
いくらサンタといえども知らない人から貰った物を食べるのは抵抗があるし、それ以上に…
「一人でこんなに食えるかよ」
甘いものは食えなくは無いが、そんなに好んで食べたいものではない。だからといって食べ物を捨てるなんてことは子供の頃からの小十郎の教えでもったいなくて出来ないし、かといってサンタから貰ったと言って親や他の人達に配るわけにも行かない。
つかなんでサンタのプレゼントが生もの?
「半分は某の分でござる」
「テメーの分も入ってんのかよ!?」
人にプレゼントしたものを自分で食うってどんなサンタ?
…だが、半ホールでも気持ち悪くなりそうだ。

結局、ケーキは殆どをサンタが食べた。
プレゼントしたはずのものを自分で美味そうに幸せそうに食べるサンタ。見た目からして自分よりも何歳も年上だろうこの男を、まったく仕方ねぇな…と弟というか犬ッコロを見るような気持ちになった。








「こんな所で何やってるのだ佐助」
「別にいいでしょー。ずっとあんな寒い外で待ってたら俺様凍死しちゃうよ」
政宗にサンタと名乗った男は、いつの間にか消えていた佐助が屋台で一杯引っ掛けているのを漸く見つけ、声をかける。
「まったく犯罪の片棒を担がせられるとは思ってもいなかったよ」
ブツブツと相手に聞こえるか聞こえないかの大きさで不満を言うが、
「どこが犯罪だ」
「不法侵入は立派な犯罪です」
「何を言う、クリスマスイブの夜にサンタが人の家に入るのは犯罪ではないのだぞ」
「何その理屈!?第一旦那はサンタじゃないし、俺様もトナカイじゃないからね!」
しかも力任せで窓の鍵を壊すなんてどんな馬鹿力だよ、お陰で器物損害の犯罪までプラスされてしまった。窓や部屋に指紋が残ってて調べられたり訴えられたりしない事をひたすら祈るしかない。
今朝いきなり『暇だろう付いて来い』と言われ、確かに暇だけどね!(かすがに振られて(泣))断る権利はあるよね!!とは思ったけど、全く断る権利は無かったようで……有無を言わさず電車や新幹線を乗り換えて約三時間かけて、この寒い時期に北の地まで連れて来られた。何をするのかの思えば、まさか犯罪の片棒を担がされるとは思わなかったよこの聖なる夜に!
何でも以前旦那が入っている大学の剣道サークルの試合でここに来た時に出会い(多分一方的に)一目惚れしたそうだ……でも、相手はどう見ても小学生の男の子……一応、サンタさんを信じるギリギリのラインだろうが、うん、どー見ても犯罪な上に変態だからね。あんな小さい子を……しかも、相手の事を調べる為にストーカー紛いまで……(旦那談:後を付いていってそれから色々と調べた…どう見てもストーカーだからねソレ!)
「佐助、お互いの間に同意…愛があれば何をしても犯罪ではないのだぞ」
「お願いだから俺を巻き込まないでね!!」
「来年か再来年のクリスマスまでに何とか懐柔して政宗殿の口から『プレゼントはオvレv』と言わせてみせる!!」
「ベタだね〜、でも今時そんな台詞言う奴なんていねぇよ。でも、サンタクロースって名乗ったてことは、クリスマスしか会わないつもりなんだ旦那」
なんつー何年がかりの光源氏計画なのだろうか?しかも、一年に一度って七夕かよ。つか、相手忘れちゃったりしない?等と様々な突っ込みどころが佐助の頭の中を一瞬で駆け巡る。
「しまったぁぁ!!そういえばそうだったぁぁ!!どうすればいい??佐助ぇぇ!!??」
「知らないよ!!俺に聞かないでよ!」



2010.12.

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