B短文

□22.キミの心をきかせて
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※少々アニメ要素あり



何故?と問われたらそれは単なる気まぐれだろう。自然の理を理解している訳でもないが、自分は肉も食うし、猟だってする…それに戦で多くの人を殺してきた……だから、かわいそうだったからなんてそんなcheapな理由じゃない。ソイツは体全体で諦めたような態度をしていたのに……唯一つ目だけが生きるのを諦めていなかった。

それは誰かを思い起こさせた。

近づくと少しだけ身構えたソイツに『おとなしくしてろよ』そう言ってソイツの足に噛み付いているtrapを外した…瞬間パッとその場を離れた。

流石は野生の獣といったところか……

「次もこんなluckyなことがあると思うなよ」

背中にそうかけてやると、森の中へと消える前こちらを振り向いてペコリとお辞儀をしたように見えたのは気のせいだろうか……

「疲れてんのか?………っさてと……」

獲物がいなくなったtrapを見下ろす。このtrapを仕掛けた者には悪いことしちまったなと思う、こっちだって生活が掛かっているのだ。仕方が無いから代わりに小十郎の畑で取れた野菜でもtrapに掛けておいてやるかな……それを見て仕掛けたヤツは一体どんな顔をするだろうか……と想像していたずらを仕掛けた子供のように楽しくなった。


さて、その夜のことである。

草木も眠る丑三つ時。政宗も無論己の部屋で一人寝ていたが……

「……!」

何かの気配を感じ、眠りから覚醒した。子供の頃から色々と苦労して来たため、人の気配には人一倍敏感だ。某忍でさえも『ちょっと、人の居るところ間単に見つけないでくれる、これでも一応一流の忍なんですけど』と呆れたように言ってくるほどだ。だから寝ていても…いや、完全に眠りにつくことは無く人か来ればすぐに目を覚ます。

(殺気をかんじねぇな?)

この様な時間帯に政宗の部屋に来るのは、暗殺者か急を要する何かが起きたときだ……前者はわずでもが殺気を発しているし、後者なら慌しく駆けて来るはずである。

違和感を感じながら、目を開け気配を感じる外の方に視線を向けると障子を通してからも分かるほどぼんやりとだが明るく感じた……

(?)

今宵は新月で月明かりなど無かったはずだ……おかしいと感じると同時に音もなく障子戸が開き、

(童?)

一瞬、政宗は緊張するがそこに立っていたのは一人の子供だった。

(ただの童じゃねぇ……だが……)

そうこの時刻でなくても、伊達の屋敷に子供がいること自体おかしい……しかも、先ほど夜にしては明るいと感じた光は子供からぼんやりと発せられているように思える。

(…Maliceは感じねぇ)

白い着物に白い髪、淡く白く光る姿…そしてその目は昼間見た狐を思い起こさせた。

(そういやアイツも真っ白だったな)

『昼間はありがとうございました』

政宗の思考に反応するように、鈴のような声が聞こえてくる。耳から聞こえてくるというより、頭に直接響くという感じだ。

(昼…?)

『ハイ、そのお礼にアナタの身に危険が迫っていることを知らせたく参った次第です』

「Ha、危険だァ?」

『ハイ、ですのでこちらを……』

「Ah、なんだこりゃ?……いつきのear guardみてぇだな」

子供が差し出したものは、政宗が仲良くしている農民の少女が何時も耳に付けている物に似ていた。

『これを耳に当てると人の心の声が聞こえるようになります』

『ききみみ頭巾の人間versionか?これで一攫千金でも狙えってか?生憎だが……』

『それでアナタの身を守ってください。私が干渉出来るのはここまでです』

そう言うといつの間にか目の前にいた少年の姿は消え、辺りは新月の夜に相応しい暗闇に覆われていた。

「ちょっと待てよ!!こんなの……」

闇に向って叫んでみたが、あたりは静まったまま政宗の問いに答えは返ってこなかった。



政宗が気がついたときは朝になっていた。

「夢……?」

キッチリと布団で寝ており、障子戸もちゃんと閉まってある、誰かが来たという形跡は見当たらなかった……

「But……」

妙にrealだった、そんな事を思いながら起きようとして、

「!?」

昨晩、子供が渡してきた耳当てが枕元に置いてあるのが目に入った。

「……じゃねぇのかよ……マジかよ……」


『これを耳に当てると人の心の声が聞こえるようになります』

「……Shit!」

(なんてもん渡してきやがるんだ、人の心なんざ知らねぇ方がいいってのに……)

この世は、そんな美しいものではない。ウソや虚構、見得や意地が大半を占めている……本当の事なんてほんの少しだ。

人付き合いはウソや騙し合いで成り立っていることくらいガキじゃあるまいし知っている。ウソを見破って、人間関係まで壊してどうしろというのだろうか、

「……こんなもんどうしろてんだよ」

そりゃ使いたくないと言ったらウソになる……だが、人には知られたくない、知ってはいけないprivacyってもんがあるし……


『――アナタの身に危険が迫っていることを…――』

あんなことを言っていたが、自分が狙われているかもしれないからと部下を疑うのか?家臣は…伊達の者達は皆、自分を信じて付いて来てくれている。それなのにこれを使うということは…アイツ等を疑うって事は、命すら預けて付いて来る部下を…己の地盤を信じていないということになる。

(まず、己が信じねぇでどうすんだ……そんなくれぇなら家臣に裏切られて殺された方がマシだ!)

ポイッと放るように道具箱の中へと入れると、朝飯を食いに部屋を出た。




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