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□Japanese gull.
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「伊賀崎、アンタにアイツ頼むわ。」
外掃除で男子にからかわれている自分の親友を眺めながら、石田がそう呟いた。
あまり分担人数が多くない多目的室掃除ということにインフルエンザの流行が重なって、2人だけでの掃除の最中だった。
普通ならそれだけで嫌な噂が流れるのが中学校の性というものだろうが、あいにくそういった噂をたてるには、俺や石田は大人びすぎている。
(要するにからかい甲斐がないのだ。)
「…は?何を?」
「だから、アイツ。」
石田が青いモップの柄を傾けて指し示したのは、校庭できゃあきゃあ声をたてる河上。
「あたしの親友ね。」
「…あー…遠慮しとく。」
窓際までいって横に並ぶ。
「なんでよ。可愛いじゃん。馬鹿だけど。」
「まぁ可愛いよなぁ…。馬鹿だけど。
てかなに?
その前に俺の気持ちは無視ですか?」
ふぁっと髪を揺らして、石田は驚いたように顔を上げた。
石田は雰囲気だけでなく顔かたちもどこか大人びていて、肩ぐらいまでの髪は巻いてもいないのにゆらゆらと波うっている。
(以前「片焼きそばみたいだ」と笑ったら、「ソバージュっぽいと言え」と全力でツッコまれた。)
俺は妙に下まつげの目立つ、一重の目を凝視した。
「なに?
伊賀崎もしかして好きな子いるの?」
「いや、別にそうじゃなくて。
河上と俺とじゃタイプ違いすぎだろ。」
「あー…そうねー…。
…でもやっぱり。
伊賀崎にはそういうのいないと思った。」
「なんだそれ。」
呆れ笑いがこぼれてしまう。
石田も俺につられるように笑った。
校長の方針で、妙に長いうちの学校の掃除時間はまだ終わらない。
「…でもなんでお前がんなこと言うんだ?」
窓から見下ろす河上は──少なくとも俺の目には、はきはき元気で可愛くて男受けもいいように映る。はっきりいって男子に"ババァ"とからかわれる石田なんかよりずっとモテるしな、馬鹿だけど。
俺みたいなのがわざわざ言い寄らなくても、付き合いたいやつなんているはずだ。
…というか確か今も付き合ってる奴いた気がするんだけど。
「あれは…春乃はさ、ウミネコなのよ。」
「…は?」
「ウミネコって、海鳥。知らない?」
「あんまり。」
石田は抽象的なたとえ話を好む。
あくまでそれが分かり易かろうが難かろうが、彼女の博識からくるその話は案外面白いので、俺は好きだ。