Japanese gull.
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「ウミネコってカモメみたいな鳥で、上から垂直に海に突っ込んで魚を捕るの。
それでね、その漁の方法が原因でいつしか失明して、飛べなくなって…魚がとれなくなって死んじゃうの。」

「…漁をしなくても死んじまうしな。」



彼女はふっと悲しげに笑った。

それと対比する校庭の河上の幸せそうな姿まで、なんだか切ないものに見える。



「今春乃が付き合ってるのは、アレ。遠山。」

石田がいかにも忌々しいというように眉間にしわを寄せて、校庭を睨み付けた。

遠山──顔がよくてモテることで有名だ。
そして、1人の女のもとに長く留まらないことでも有名だ。


言われてみれば、確かに今河上と話しているのは遠山。
河上の顔の不自然なぐらいの紅潮は、寒さだけが原因ではないようだ。



「馬鹿だよねぇ。あんな男選ぶとか。
自分が傷付くってわかってるくせに。」

「…お前は考え方のウェートが重いんじゃねぇの?たかだか中学生の恋愛じゃん。」

「そのたかだか中学生の恋愛でさえあんなのに引っかかるようだから、これから先が心配なの。」


随分深刻そうにいうものだから思わず笑いを堪えきれなくなって、吹き出してしまった。
至極真面目に話していた石田は「貴様も敵か」とでもいうように、先程まで校庭の遠山に向けていたのと同じ視線を俺に向ける。


「ああ、いやゴメン。
別に馬鹿にしたわけじゃなくて。」

「……じゃあなに?」

「いやさ、お前相当河上のこと好きなんだなぁって思って。」

図星だったのか、いつも超然としている石田の顔が、かぁぁぁと年相応に赤くなった。

「…悪い?」

なんだ。それぐらいのほうが可愛いじゃん。

「いや別に。
でもさ、なんつうか…、そこまで気にかけるのはなんか…アレだぞ。
…お前もウミネコだな。
河上って魚しか見えてないんだな。
友達少ないからなぁー…石田。」

俺まで柄にもなく、ふざけて石田をからかった。なんだか若々しい気分だ。
…なんて、充分若いんだけどな。

「…人を寂しい奴みたいに言わないで。
友達の少なさぐらい人に言われなくてもわかってるつぅの!
人に言われるとなんかムカつくのよ。」

ケラケラ笑う石田のことも、いつもより若々しく見えた。
…なんて、石田も充分若いんだけどな。



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