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□木曜16:00〜16:30
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「怖いんだけど。」
眉間にしわを寄せて、彼がそう言った。
「…なにが?」
「…お前が。」
「、なんで?」
「だって…」
見つめすぎ、と自分の目を指差す姿はとても可愛らしい。
反則だ、そんな表情は。
「よくそんな長くまばたきしないでいられるよな〜」
「え…?」
「あれ?もしかして無意識だった?」
乾いた目をしばたかせて目薬を探しながら、彼の声に耳を傾ける。
週に一度与えられたこの放課後の30分間は私にとっての天国だ。
もちろん彼は、そんなこと知らないけれど。
「毎週そうだよね。
この時間さぁ、いっつも俺のこと睨んでるでしょ。」
「、…いや…。」
「何か俺のこと気にいらない?
そうなら来週から、放課後ここに残るの止めるけど…」
「…別に」
…どころか全然、私が彼に対して気にくわないことがあるわけじゃないし、ガンつけてるわけでもない。
そう彼に、その先を続けたいのに。
不器用な私の口は上手く言葉を紡げない。
一人あうあう言う私を見て、彼が静かに笑った。
オレンジ色に染まる教室の中は2人だけ。
口数は少ないし、一歩間違えば気まずい時間になるのだろうけれど…
不思議とそうは思わない。
「そっか、ならよかった。」
頭の中では葛藤に悶えているのに、そう言ってにっこり笑う彼の顔を眩しさを見たら、すべてがどうでもいい気がしてしまう。
赤くなった顔を見せるのが恥ずかしくて、そっぽを向いた。
そしてすぐに、見なければよかったと後悔をする。
私の視線の先に居たのは、
「オサム!」
「…おう。」
この時間の終わりを告げる人。
…彼の、彼女さん。
居残って勉強するふりをしながら彼女と帰っていく彼を見送ったあと、静かにひとり、机に向かって呟いた。
…いつだって心は苦しいけれど、
「私は、この時間が好き。」
悲しいわけじゃない。
けれど今、私の乾いた目に水が溜まるのは、さっきまで胸を潤していた何かがここまで移動してきたからだ。
そう思った。
木曜16:00〜16:30
(まばたきするのも勿体無いぐらい)
(私にとって大切な時間)
【2010.03.09.】