逃げる男を追いかけて、
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「亜梨紗だいじょうぶ?!」

一歩先を走っていた美羽は背中をさする亜梨紗に近寄りまして、おでこを見ました。
するとそこには綺麗な靴底の痕が真っ赤になって残っています。
亜梨紗は自分の手のうちに落ちた便所スリッパをなにこれというふうに睨みました。

「あまりに必死に逃げすぎて、走りながら脱げたみたい。」


くっそ!あの男め!と親友の額を傷つけられた美羽は憤り(※基本的に彼女の辞書には、自業自得という言葉は存在しません)ちょっとあんた謝りなさいよ!…と目の前を走る男に叫ぼうとしました。

が、

「…あれ?」

ほんの十数秒前までそこにいた男の姿がどこにもありません。


「ちょっと…」

地べたにぺたりと座りこんだままの亜梨紗の腕を引っ張り立たせまして、2人で辺りを見回しました。
するとまぁ、いつの間にか商店街のかなり外れ──北のほうまで来てしまったものです。

もう今自分のいるところで南通り商店街は終わり、進もうとする先には夜の闇ばかりがぱっくりと口を開いています。
振り返れば今まで走ってきた大通りの薄暗い蛍光灯がチカチカ光っています。
急に寂しい気持ちがして、塾帰りになにをしているのだろう…そろそろ帰らなければ、そんな雰囲気が2人の間に漂いました。

「…やっぱ帰ろっか。」

美羽がそう呟きましたが、そのときふと亜梨紗が思い出したように言ったのです。


「このスリッパは…どうしよう?」



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