このまま私を眠らせて
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ピンポーン、
と間延びのする音からしばらくして、
開いたドアの向こうは、昼間だという
のに驚くほど暗かった。
そして、そこから伸びるこの部屋の主
の腕は病的なまでの、白。

「久しぶり、サキねぇちゃん。」

私が最後に会ったときの、あのみずみ
ずしい白肌の美人──自慢のイトコは
何処へ行ってしまったのか。

「…、頼子」

顔に彫り込まれたかのような深いを皺
をこちらに向けてからようやく、咲希
さんは私を認識したようだ。
一瞬『そのまま突き返されるのではな
いか』と思った私の心は異様な速度で
拍動を繰り返している。

「上がっていってもいいかな?」

「、どうぞ」






こもった空気を循環しようと了承を得
て、ベランダを開けた。
小さなテーブル、そこに乗ったマグカ
ップごしにちらりと彼女を盗み見る。
窓から流れてくる風と光を見て眉をし
かめる咲希さんは、人間というより吸
血鬼などの類といったほうがしっくり
くるのは何故だろう。

しばらくの間2人で(というより私が
一方的にだが、)とりとめのないこと
を話し続けた。

、あくまでも本来の目的は、私の新生
活の楽しい土産話などではないのだけ
れど。





「咲希姉ちゃん…」

「…、ん?」

「学校、なんで行かないの?」

「……」

私がその話題に触れた途端、今までの
柔らかい雰囲気がピシリと音を立てて
崩壊してゆく心地がした。

「、叔母さん達も…安紀子先輩も、み
んな心配してる。」

「……、そう」

咲希さんの顔は申し訳なさそうにぐっ
と歪んだ。しかしその声色には、驚く
ほどに感情がない。

「…でもせっかくだけど、私「そんな
に男の人にフられたことって引きずる
ことなの?」

自分でも想像しなかったほどに力強い
声が出た。
目の前の咲希さんも瞳を見開いて固ま
っている。



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