デリート
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「知ってる?
生き物ってのは要らないモノを捨てながら、進化してきたんだよ。」

一向に片付けの終わらない私に向かって君が言った。


「だから?」

「だから、要らないモノは捨てないと、前に進めないでしょって言ってんの。」

そう言って君は呆れたように笑った。

そんな話をしたのはもう、ずっと昔のこと。




ただこの小さなボタン一つ押せばいいだけなのにと、携帯画面の君の名前にため息をついた。

『要らないモノは捨てないと、前に進めないでしょ。』


もう君から連絡がくることはないんだから、私にとってこれは要らないモノ。

きっともう君の携帯に私の名前はないから、きっと君は前に進んでいる。



だけど
それでも、
私は片付けられない女だから。



携帯の君の登録も、

無意識に君の後ろ姿を探す目の機能も、

君の香りを嗅ぎ当てる鼻も、

君の声に反応する耳も、

君が好きと言ってくれた長い髪も、

なにもかも手放せない。


余計な機能をどんどん背負って私の心は重くなる。



君がいなくなって、私は退化したみたい。





デリート
(あの頃みたいに、)
(片付けを手伝ってくれるあなたは)
(もういない。)






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