SL
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 どうせ叶わない恋なのだからなおさ
らこの愛し方は下手くそだと、自分で
も思うのだ。


 初めての出会いは電車の中だった。
狭い電車の中でもみくちゃにされて押
しつぶされそうになっていた私を、人
混みとの壁になって助けてくれたお兄
さん。スラリと背が高くて、いかにも
スポーツやってます、という爽やかさ、
力強いのに、それでいて細い手足はど
こか中性的な魅力がある。
 偶然下車する駅が一緒で、お礼を言
ったときの「どうも」の見た目に似合
わぬ声の高さに爽やかな笑顔に目を奪
われた。
 完全なる一目惚れだった。

 それからしばらくの間私は意味もな
く早朝の電車に乗り続ける。それだけ
のことを思って電車を待つのが楽しか
った。
 だからその時はまだ、予想もしてい
なかったのだ。それから一週間後にま
さか自分の通う大学内で再会すること
になるなんて。



「いやんなっちゃうな…」
 寮の自室でもう乾きそうな髪をクシ
ャクシャ乾かしながら窓を開けた。今
日は月が綺麗だ。ひやりと涼しい風が
気持ちよくて、湯冷めのことも考えず
に窓枠に腰掛けた。近くに置いていた
原稿用紙の束を手にとりパラパラと中
身をチェックする。これは所属するサ
ークルにて、私が書いた小説、のよう
なものだ。

「………、」

 自分でも納得のいかない結末を直す
のも面倒で、そのまま窓枠の上に置い
た。月明かりに照らされてより一層強
調されたラストシーンは歪な喜劇。こ
んな救いようのない展開しか書けない
のはおそらく自分のモチベーションの
問題なのだろう。

それにしても何故私は小説なんて書き
たくもないのに、文学サークルに所属
し続けなければならないのか?――そ
の答えは単純で、そこがカズ先輩と再
会した場所であり、私と先輩の唯一の
接点であるからだ。


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