サヨナラアナタ、こんにちは悲しみ
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「もういいでしょ、出て行って。」


目の前で、おそらく今まで一度もぶたれたことのないであろう頬を抑えている男を見下ろしてそう言った。

全く年を感じさせない童顔。
下手したら中学生にも見えそうな可愛らしい顔に描かれた眉はこれでもかというぐらいハの字型になっていて、目は厚い涙の膜が貼っている。

泣きたいのは、…いや泣いていいのは私の方なのに。
目に映っている、「なんで…」と呟いた弱々しい姿は、私の胸にじわりと罪悪感を滲ませた。


訳を話す代わりについたため息が、白い息になってふたりの間にぽつりと浮かぶ。

問いすがりつくわけでもなく、捨てられた子犬のような顔でこちらを見上げるだけの貴方を見つめるのが、ただ辛い。

そんな顔をしたって意味はない、
だって捨てられるのは私のほうじゃない。


嗚呼私はいつどこで間違ったんだろう。
どうしてこんな禄でもない男に引っかかったのだろう。


彼が調子のいい人間だったことは最初から知っていたし、2人楽しくやっていければそれでよかった。
それ以上は望んでいなかったのに。

彼は上手に浮気を続けるには、あまりにも子供すぎたのだ。

奥さんに感づかれそうになっていることは、すぐに私にもわかった。



誰をも傷付けない方法が存在すると信じ込むこのお子様は、必要以上に周囲の人間を傷付けるだろう。


だから私は、貴方の困った顔なんてみたくないから、さよならしてあげるのだ。



「出て行って。」

もう一度、ピシャリと言い放った。

「早く出て行って、ドア…閉めてよ!」

口早に言葉を紡ぎ出す。
そんな顔したって無駄なんだから、
お願い早く出て行って。


「…、ごめん。」

ノロノロと立ち上がって、丁寧にお辞儀をして、彼は部屋を出て行った。

背中を見つめるのも嫌で、これ見よがしにバタンと鳴らしてドアを閉めた。
アナタなんて、愛しい奥さんの待つ家に急ぎ足で帰ればいい。



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