素直じゃない
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「ぎゃっ!」

 台所で食器を洗っていると、リビン
グから娘の大声が聞こえた。

「…っねえ、今の見た!?今の見た!?な
んか映ってたよね映ってたよねえええ
ええ!!!!」
「ええ?うん、まあ…でも作り物っぽ
くない?」
「ぅうぎゃああああああああああ!!!!
!!!!!!!!!」
「痛いイタイイタイイタイ!!!!穂純痛
い!!!!」

 娘の怒声と、背中を叩かれたお隣さ
ん宅の修君の声。どうやら二人で心霊
番組を見ているらしい。

「怖いなら見なきゃいいのに…」
「ぎゃっ!お母さん急に話しかけない
でよ!」

 修君の背中に縋り付きながら穂純が
また大声を上げる。

「急じゃなかったらどう話しかけるの
よ、もう。あんまり大声上げないでよ
ね。」

 いつもなら自分からは絶対家に呼ば
ない修君を、今日に限って穂純が夕食
に呼んだのはこういうことだったのか
と二人の姿を見つめていたら、つい笑
みがこぼれた。

「すみません、ご迷惑おかけして。」
「こちらこそごめんね、穂純が迷惑か
けて。」
「あ、いえ、いいんです。僕もこの番
組楽しみにしてたし…って痛たたたた
い!もう穂純が怖い!番組より穂純が
怖い!!!!!」
「なんでよ!ゆーれいのがどう考えて
も怖いでしょ!!ってぎゃーーー!!!」
「ホントに怖いの!?怖がるふりして俺
に技かけたいだけじゃないの!?」
「なんでそのためだけにアンタのこと
家に上げなきゃなんないのよぎゃああ
あああ!!!!!」
「穂純耳元はダメ鼓膜が!!」「穂純う
るさい、いい加減にしなさい!!!!!」



「…という感じだったのよ、昨日の夜
は。」
 3時のおやつとお隣さん宅のお茶に
お邪魔して、美里ちゃん、つまりは修
君のお母さんに昨日の出来事を話すと、
彼女はふふふと綺麗に笑った。

「まったくうちの穂純は本当に怖がり
で、それに比べたら修君は涼しい顔し
て、幼馴染でもすごい違いだわ。」
「あら、修だって昔から怖いのはから
っきしよ。」
「え、そうなの?」
「ええ、心霊番組なんてCM見るのすら
嫌がってチャンネル変えちゃうんだか
ら。」
「え、でも昨日の夜は全然平気そうだ
ったわよ。」
 それを聞いた美里ちゃんは、もう耐
えきれないというように笑い出した。

「もうあの子は、穂純ちゃんに頼られ
たいからって強がっちゃって!」


恐怖
(恋する男の常識です!)


あとがき⇒
【2012.08.31.】

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