歌い流れるように
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 一度知った失恋の悲しみというのは、鳴らし方を知った楽器のようなもので。ふとしたきっかけに、勝手に鳴り出してしまう。
 そのきっかけは、音楽だったり天気だったり空気だったり、人によって違うのだとは思う。なにがその琴線に触れるのかある程度自分でも知っているけれど、制御するにも限度があるだろう。
 今だって涙が止まらないのは、テレビドラマの台詞がきっかけなのだから、情けなさが身に染みる。

『君は、もっと君を大切にしてくれる人と付き合った方がいいよ。』

 以前なら、なんてありふれた台詞、と聞き流しただろうに。人は実験に経験をして、ようやくフィクションのもつ威力を知る。聞きたくもなかった言葉。知りたくもなかった痛み。

 あなたに大切にして欲しい、と、思ってはいけないの?あなた以外に大切にされたい、と思うことなどないというのに。

 静かに静かに鳴るように、音の代わりに涙が伝う。


【2012.10.06.】


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