怠惰。
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…──転校した?

 夏休みの前日、修業式の日、俺が知らされたのは彼女がいなくなった、ということ。
 仲の良い友達にも何も言わず、住所も連絡先も誰も知らない、本当に突然のことだった。

 クラスのマドンナが居なくなって、その日1日でクラスには様々な噂、憶測が飛び交った。

 “誰も彼女の連絡先は教えられていないんでしょ。でも昨日あの娘、可愛い手紙を持ってたよ。好きな人に告白したんだよ。そこにだけ住所が書いてあったんだよ、きっと。そういえば昨日の昼休み、直継と出て行かなかったっけ?え、あの娘が好きなのは隣のクラスの仲村くんじゃないの?え、違うよ、担任の先生だよ…”

 俺は何も言わなかった。何も言わずにただ、小さく震える淳夫の背中を見つめていた。


「先生にアイツの連絡先聞かないの?」

 帰りの会が終わって、明日からの夏休みに浮き足立つ騒がしい教室で、俺は淳夫に声をかけた。
 淳夫は小さく首を振って、困ったように笑った。

 確かに小学生の俺達にとって、先生に女の子の連絡先を聞くのはとても勇気のいることだ。でも、本当に好きな子のためなら出来るだろう?出来ないのなら、本当の“好き”じゃないんだ。淳夫もあの娘のことが、本当に“好き”じゃなかったんだ。

 教室の扉を出て行く小さな背を見つめて、自分にそう言い聞かせた。
 それが淳夫を見る最後になるとも知らずに。

 夏休みが始まって3日目、俺達がサッカーをする公園に向かう途中、淳夫は死んだ。信号無視して飛び出した高校生の自転車にはね飛ばされて、打ち所が悪く、即死だった。



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