ヘイ、ユー!
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甘い匂いの立ち込めるキッチンに立つ君があまりにも幸せそうだから、いつもみたいにちょっかいを出すことが出来ない俺は、ただリビングのソファに座ってその姿を見つめることしか出来ない。


「ん、完成」

と笑う姿はとてつもなく可愛いんだけど、それは純粋に完成を喜ぶ顔だけの顔だから、思わずお子ちゃまだなぁと笑ってしまった。
もし性別が逆で、俺がチョコレートを作る側だったとして(そしたらもちろん贈る相手は君だけど)本気の気持ちがこもったチョコレートを作れたらもっと素敵な顔が出来る自信があるよ。
まぁ、口には出さないけれど。


それに気付いた君が、ギロリとこちらを睨んだ。先ほどの笑顔のひとかけらでもこちらに向けて欲しいものだ。

「…なによ。」

「ねぇ、それ俺にちょーだい。」

「、なに馬鹿なこと言ってんの?
サイさんにあげるんだから駄目に決まってるじゃない。」

てきぱきとは程遠い手つきでキッチンを片付けながら君はきっぱりハッキリ言った。

「宰兄は甘いもの好きじゃないから、食べないよ。俺ならいくらでも喜んで食べて、おまけにびっくりするぐらい豪華なお返しが出来るのに…。」

「…あんたじゃ意味ないもん。
私はサイさんに渡したいんですーっ!」

い゙ーーーっ、と歯をむき出してこちらを威嚇する姿はまさしく小学生丸出しで、(いや実際小学生なのだから問題はないのだけれど)なんだか切なくなってしまった。


「あんたにはこれで充分じゃ!」

ヒュッと綺麗なフォームを描いて俺の額に向かって飛んできたのは、ミルク味のチロルチョコ。

「…せめて手作りがよかったな。」

「文句があんならそれ返せ」


…本当に連れないものだ。
スポンジに洗剤を付けすぎてわたわたする君を横目にひょいとキッチンに移動して、オープンの上に載ったお皿を持ち上げた。


「じゃあコレと交換してよ。」

「だーかーらー!駄目ってさっきから言ってるでしょ!それはサイさんのなの!」

「違うって、そうじゃなくて…一回目に焼いた失敗したほう。」


君の手がピタリと止まって、それから顔がこちらを向いた。

「どうせ捨てるんだろうし、いいでしょ?」


俺が首を小さく傾けたら君の顔が俯いて─、

「がんになっても知らないから」

と、はにかんだ。






イ、ユー!
君の脳味噌は何のためにあるんだい?そりゃあもちろん考えるためにあるんだろうけど、その一割でもこっちに向けてほしいなあ、なんて




(title by,HENCE.)
【2010.02.14.】


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