ハロー、ハロー
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ぶるり、と震えてしまうような冷たい風に頬をなでられて、私の瞼はぱちりと開いた。


(今からだとどれくらい前のことになるのかわからないけれど、)先程まで2人並んで見ていたレンタルの古い映画はきちんとケースに仕舞われていて、代わりにテレビは深夜特有のなんだか訳の分からない外国の通販番組を映している。

無造作に掛かっていた毛布をたたんでソファに置き、開けっ放したベランダの窓を閉めなきゃなぁ…あれ?そもそもこんな冬に窓なんか開けっ放しておかないよなぁ…なんて、ぼうっと考えながらふらっと立ち上がった。



「あ。起きたんだ。」


寒い寒いと呟きながらベランダまで行くと、突然足元から聞き慣れた声がして、眩しい光に顔を照らされる。


「…なにしてんの?」

ぱちりぱちりという音とともにあがる不規則な光の柱は、どうやら彼の手に持つ懐中電灯から伸びているらしい。


「…なにって、宇宙人と交信してるの。」

ああ、この電波ちゃんめ。
彼がここにいる限りは窓は閉められないなぁと、とりあえず隣に腰を下ろした。


「なんで?」

「…君だってさっきの映画見てたでしょ?」

君は質問ばかりだね、と呟きながら、夜空に伸ばす光を点けたり消したり。飽きもせずに続けている。

あの映画は確か、ひょんなことからヒロインが地球征服を企む宇宙人に出会って、2人の間に愛が芽生えていく…というような話だった。
借りたいと言ったのは私だったけれど、なんだかイマイチぴんとこなくて途中で眠ってしまったから、ラストがどうなったかはわからない。


「懐中電灯で宇宙人って呼べるのかな?」

一向に円盤もなにも飛んでくる気配のない冬の空は静かだ。隣から伸びる真っ直ぐな強い光が、空の高いところで夜の薄暗い黒に溶けている。

「さぁ。別に呼んでるわけじゃないし。」

「?」

「モールス信号でメッセージを、一方的に送信中。」


なるほどさっきから彼が懐中電灯を点けたり消したりしているのは、モールス信号だったのか。
って、分かったところでもちろん読めはしないし、それがなんなのかはよく分からないけれど。


「宇宙人に伝えたいことが宰にあるなんて、なんだか思いつかないな。」

寒さを少しでも和らげればなと、さっきまで寝ていた自分に掛かっていた毛布をソファから持ってきて、2人の体ごと包み込んだ。トクトク響く互いの心臓音と体温を感じる中で、相変わらず宇宙にメッセージを送っている彼に伝えた言葉は、私の素直な感想である。



「『ヨシノナツメ ハ ソウジ ガ ニガテ』」


「……は?」

「他には、
『ヨシノナツメ ハ イビキ ガ ウルサイ』
『ヨシノナツメ ハ ムネ ガ チイサイ』
『ヨシノナツメ ハ エ ガ チョウヘタクソ』
…とか。」

「え?…ちょ、なに?なんでいきなり私の悪口?」

純粋に訳が分からず戸惑う私に対し、隣の悪魔はその綺麗な顔の筋肉を涼やかに弛ませて、こう楽しげに言い放った。


「違うよ、君の悪口じゃなくて、


僕が宇宙人に送ったメッセージだよ。」



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