雨が好き
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「ねぇ、また雨。」

そう呟く君の頬を、ポタリと雨水が伝った。
制服は濡れると面倒だよ、という僕の声に従って、彼女は曇天の下から公園の休憩所に避難する。


「あのさ、私たちが会うときってだいたいいつも雨だよね。」

「…そうかな?」

「そうだよ。」

この前の映画も、買い物に行ったときも、図書館に勉強行ったときもみーんな雨だった、と小さな指を折り曲げながら君は笑う。

「だからね最近は私、デートに行くってなったときはもう、絶対屋根があるところを希望してたんだよ。」

知ってた?と無邪気に微笑みかける君に、気がつかなかったという言葉とよれよれのスポーツタオルを渡す。
君は一瞬眉をしかめたけれど、何も言わずに制服を拭った。



「…イヤだなぁ、雨。」

ガサゴソカバンを探す音と、ザァザァと空から落ちる雨音のみが辺りに響く。
あいにく2人とも傘を持っていなくて、大降りになった空の落ち着くのをただ待つことしか出来ない。
雨水独特の生臭さがツンと鼻の奥をついた。

「ちょっと一緒に帰るだけだからと思って油断してたや。」

いつも2人で出掛けるときは絶対折りたたみ傘持ってるんだけどね、と、湿気でハネた毛先をいじくりながらちゃかすように言う君を見つめた。
…ああ、そうか。今日はなんだか雰囲気が違うなと感じたのは、いつも見慣れた雨の日の君じゃなくサラサラストレートの──晴れの日の君だったからなのか。



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