□悪戯彼女(了雲&山獄)
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「…ついでに」

真夜中の学校。
誰もいないはずのそこに、ふふっと妖しく微笑む影が一つ。

「これでよし」

カツカツと黒板に白い文字を残し、彼女は学校を後にした。



=悪戯彼女=



「武ー!!お前やるなー!!」

ひゅーひゅーと朝から冷やかされた。
今日は珍しく朝練がなかったから、久し振りに獄寺とゆっくり登校してた。

「え??何が??」

訳も分からず聞き返す。
もちろん隣りの獄寺も不思議顔だ。

「とぼけんなよー、見せつけやがって!!」

肩を叩いて去って行くクラスメイトを引き止める間もなかった。

「…お前、何したんだ??」

去っていった奴だけじゃない。
他にも廊下にたむろしている奴等から好奇の視線が向けられている。
獄寺の機嫌が急降下しているのが分かる。
こーゆー視線を特に嫌うのだ、彼女は。

「な、なんもしてねーよ!!ホントにっ!!」

全く心当たりのない俺は慌てた。
一体何なんだ…。

「取りあえず教室行くぞ」

つかつかと歩いていく獄寺を追いかけて、俺たちは教室へ向った。

「…」

ドアを開けた瞬間、俺たちは固まった。
クラスメイトの視線が突き刺さる。

「な、なんだよ、コレ!!俺知らねぇよ!!」

黒板にでかでかと書かれた白い文字。
それに絶句した。

「…」

焦る俺に比べて冷静なままの獄寺。

「獄寺っ!!これ俺じゃないからな!!」

でかでかと書かれた文字。


『獄寺隼人は俺のもの!!』


こんなことしようものなら(ホントはしたいけど)花火が飛んでくるのは目に見えている。
だけど誰なんだ…こんな事する奴は。
獄寺は俺のだ!!

「…いるんだろ、雲雀」

今までだんまりを決め込んでいた獄寺が口を開いた。

「…へ?雲雀??」

間抜けな声を出してしまった俺には目もくれず、獄寺は黒板横の窓を凝視した。

「…流石だね、獄寺隼人」

ふふっと微笑みながら雲雀が姿を現した。
…ここ4階ですけど。
なんてツッコミは誰もしない。
セーラー服のスカートをひらりと翻しながら雲雀は獄寺の隣りに立った。

「お前なぁ、こいつがこんなに綺麗な字書けると思ってんのか??」

「随分崩したつもりだけど」

「野球馬鹿の字の汚さ知らねぇだろ」

「わぉ、そんなに汚いの??」

「当たり前だ、あれは新しい文字だ」

…そんなに汚いか??俺の字。
確かにお世辞でも綺麗とは言えないけど。
そこまで言われると流石に落ち込むのな。

「…で、なんでこんなことしたんだよ」

そうそう、それ。
なんで雲雀がそんな事を書いたのか。

「ついでだよ」

にやりと笑って雲雀は言った。

「雲雀…また、先輩からかってんの??」

「だって了平可愛いんだもん」

…先輩、相変わらず大変だな。
雲雀が悪戯するのは毎度の事だけど、たまに俺たちまでそれに巻き込まれる。

「おい、野球馬鹿…」

「りょーかい」

言わずとも獄寺の言う事は分かる。
“芝生頭を連れて来い”だ。
雲雀に悪戯させるのも、それを終わらせるのも先輩の仕事。

「んじゃーちょっくら…」

俺が教室を後にしようとした、その時、

「雲雀はおるかーっ!!」

大声を上げて先輩が自らやって来た。

「先輩ナイスタイミング!!」

「おう、山本!!雲雀はおるか??」

「もちろん」

そう言って教室へ通す。

「遅いよ、了平」

少し頬を膨らませながら雲雀が言った。
先輩の前だと途端可愛くなるんだよな。

「雲雀を狙っとる輩はどいつだ?!」

お前か!!それともお前か!!
先輩はその辺の男子に噛み付きそうな勢いで捲し立てた。

「…雲雀、お前…」

その様子を見ていた獄寺が呆れたように呟いた。

「うん、『雲雀恭弥は俺のもの!!』って書いといた」

悪びれずにしれっと言った雲雀を見て、獄寺が盛大な溜め息をつく。

「字で分かる事ない??」

「芝生頭に分かる訳ねーだろ…」

「そうかな??」

呑気に話してるのはいいんだけどさ…。
問題は先輩なのな。

「お前かぁ!!」

ひぃぃと怯えるクラスメイトから先輩を引きはがす。

「先輩!!それ、雲雀の悪戯だから!!」

「む??山本、まさかお前…」

「ちーがーうって!!俺は獄寺一筋!!」

それもそうだな。
と言って先輩は少し大人しくなった。

「了平」

「どういうことなんだ、雲雀」

極限にちんぷんかんぷんだ、と言った先輩に雲雀は優しく微笑んで言った。

「僕を自分のものだって言う奴がいたら了平はどうするかな、って思って」

「もちろん俺はそんなこと許さんぞ!!雲雀は極限に俺の彼女だからな!!」

「…了平!!」

ぎゅっ。
雲雀が先輩に抱き付いた。
負けじと先輩も雲雀を抱き締め返す。
全くもって傍迷惑なカップルだ。
…羨ましくもあるけど。

「お兄ちゃん!!恭ちゃん!!」

誰も邪魔できない雰囲気を醸していた2人にツッコミが入った。

「もー、恥ずかしいから自分の教室でやってよー!!」

「む、それもそうだな!!」

「僕らがどこで抱き合おうと勝手でしょ」

「邪魔したな!!行くぞ、雲雀」

先輩は、ひょいと雲雀を抱き上げて去っていった。
…なんだったんだ、あの2人。

「ごめんね、山本君、隼人ちゃん」

申し訳なさそうに笹川が歩み寄ってきた。

「や…、笹川のせいじゃねーって!!」

「そうだぜ、京子。雲雀が全部悪い」

「でも、恭ちゃんもお兄ちゃんが好きすぎるだけで…悪気はないんだよ」

「…悪気しかないだろ、俺たちには」

「だなー」

笹川は軽く苦笑した後に言った。

「きっと恭ちゃん、2人の事も大好きなんだと思う」

「「…??」」

「だって恭ちゃん、興味なかったら見向きもしないし」

にこりと笑った笹川を見て、獄寺は再び大きな溜め息をついた。

「…迷惑極まりないっつーの」

「ははっ」

ああ見えても雲雀はなかなかの寂しがり屋なのだ。
だからなのかは分からないが今日みたいに巻き込まれるのは日常茶飯事。

「お兄ちゃんと恭ちゃんと、これからも仲良くしてね」

にこっと笑う笹川に、俺たちは、

「…あぁ」

「もちろんなのなー」

と答えるしかなかった。





End.

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